新型コロナウイルスの影響で観光業や警備業界が厳しい状況に置かれている。感染防止のために旅行客がほぼゼロとなり、観光バス会社では廃業に追い込まれるところも。今年は東京五輪・パラリンピック開催で特需を見込んでいたが、コロナ禍と五輪延期という二重の打撃で暗転した。慢性的な人材不足が続いていた警備業界でも五輪を見込んで人材を積極雇用していたが、この不況で「(業界内での)淘汰(とうた)が始まった」との声も出ている。(大渡美咲、橘川玲奈) 【グラフ】新型コロナ関連の経営破綻件数の推移 《仕事が無いので、カラオケはじめます!》 ツイッターにそうした一文を載せ、中型バスを使った「1人カラオケ」を今月18日から始めたのは新潟第一観光バス(新潟市南区)だ。新型コロナの影響で、2月後半から、学校の校外学習などの利用でキャンセルが相次ぎ、既に売り上げは95%もダウンした。 「どこも厳しい状況なので無料にした」と同社の小林香織・常務取締役。駐機場で待機しているバスで車内のカラオケセットを使い、新潟県民に限り、2時間まで無料で開放している。毎年8月に開催されている日本三大花火大会の一つ、長岡市の花火大会の中止が決定。本来なら例年この時期には、同社で所有しているバス15台全てを使うが今夏は絶望的な状況だ。 東京五輪では期間中、バス約2千台が必要と試算された。さらに夏は例年、学校のイベントや甲子園大会などでバス需要が高まり、業界全体でフル稼働の見込みだった。しかし、状況は一変した。 国土交通省によると、廃業に追い込まれた貸し切りバス業者は今年2月に全国で2社、3月は8社に上る。4月末に貸し切りバス業者64社に行ったアンケートによると、所有するバスのうち、稼働している台数の割合を示す実働率も2月以降減少を続け、5月は5・3%まで落ち込む見込みという。観光頼みの貸し切りバスの事業者はさらに苦しい状況に直面している。 同じく五輪特需が見込まれていた警備業界にも逆風が吹き荒れている。関東地方の警備会社の男性社長(62)は「緊急事態宣言でイベントや店が休みになり、警備の仕事が一気になくなった」と打ち明ける。 東京五輪に向けて業界全体で人材を確保することが急務だった。一方で、五輪後は警備業界の淘汰が進むとも予想されていたが、男性社長はその状況が新型コロナで「早く来てしまった。大手は残るが中小は厳しい」と話す。 都内のオフィスビルで警備を担当する男性警備員(62)は「本来なら東京五輪で警備業界は人が足りないくらいだった。警備需要は大幅に減って、警備員を絞っているところもある。仕事があるだけでもありがたい」と打ち明ける。