東日本大震災の経験を伝える亘理町の「震災語り部の会ワッタリ」が結成10年を迎えた。被災地を案内するバスツアーは新型コロナウイルス禍で参加者が大幅に減っていたが、今夏は増加が見込まれる。会員は記憶を語り継ぐ意義をかみしめながら活動を続ける。
ツアー参加者 今夏の回復期待
「めいが(沿岸部の)荒浜に住んでいて命を落としてしまった。津波は来ないだろうと慢心してはいけない。とにかく逃げることが大切だ」
6月17日にあった同町荒浜地区を巡るバスツアー。鳥の海公園にある犠牲者の鎮魂の碑の前で、会員の佐藤信三さん(81)が語りかけた。
この日、ツアーに参加したのは高崎健康福祉大(群馬県)の学生20人。4年関根崇希さん(22)は「震災を乗り越えて生きる人の思いを知ることができた。津波の恐ろしさを忘れないために、また語り部の話を聞きに来たい」と話した。
ワッタリは2013年4月に15人程度で活動を開始。つらい経験を話すことに心理的な負担を感じてやめる人もいて、今は60~80代の8人が会員登録する。佐藤さんは発足時からの会員で、ガイドを引き受ける主要メンバーの1人だ。
発足初年度に約5600人に上ったツアーの参加者は年々減少。コロナ禍の20~22年度は約130~400人にとどまった。本年度は6月末までに87人が参加し、7月末までに6人の予約も入っている。
町内には震災遺構がなく、被災地ツアーの訪問先として選ばれにくくなっている側面がある。それだけに、語り部の活動が重要な役割を持つと会員は考えている。
佐藤さんは「町が受けた被害の事実や教訓を、語り部活動ができない人の思いも背負って伝え続けたい」と願う。