交際費削減、ゲストハウスとの競争、メニュー考案のコンサル… 背景さまざま

 各地で相次ぐ食材偽装問題。これまでに企業から消費者庁に寄せられた虚偽表示の報告が約100件に上るなど、問題は拡大の一途をたどる。きっかけとなった阪急阪神ホテルズ(大阪市)の食材偽装が明らかになって22日で1カ月。全国各地の名門ホテルや老舗百貨店に相次いで波及した偽装の根はどこまで深いのか。
■合理化が背景か
 食材偽装が起きた理由について、問題を公表したホテルなどは「法令への知識不足」「担当者の連絡ミス」を理由に挙げる。だが、海外のホテルで総支配人を歴任したドイ・ホスピタリティ産業研究所主宰、土井久太郎氏は「ホテルが経営合理化に迫られていたことが偽装の要因の一つではないか」と分析する。
 土井さんによると「国内高級ホテルの場合、婚礼や宴会を含む飲食部門の収入が約7割を占める」という。しかしバブル崩壊後、近年は企業が「交際費」を削減。婚礼も小規模化や、ゲストハウスなど新たな競合が台頭し、苦境に立たされている。
 ホテル側は「あえて安い食材を使おうという意図はなかった」と口をそろえ、コスト削減目的を否定するが、土井氏は「収入が伸びなければコスト削減しかない。それでも客は高級感を求めるので、それに応えようと格好をつけようとしたのではないか」と話した。
■広告業者の助言も
 ホテルのメニューは誰が考えているのか。ホテル業界の関係者によると、レストランの責任者や料理長が考案することが多いが、最近は広告代理店やコンサルタント業者が関わることも少なくないという。
 単なる料理名だけでなく、例えば「自家製サラダ」「手ごねハンバーグ」などと装飾語をつけることで顧客の目を引き、メニューで他店と差をつけるのが狙いだ。
 厚生労働省のまとめでは、ホテルを含む国内の飲食店は約142万店で国民90人に1店以上の飽和状態となっている。加えて外食支出は減少傾向にあり、飲食店は限られたパイを獲得するために知恵を絞る。
 顧客の目をひきやすいようにとメニューを装飾する言葉も年々、派手になっているという。
 ただ、メニュー考案をサポートする業者が打ち合せをする相手は、レストランの営業担当者が多く、調理担当者と話をすることはほとんどないという。ある業者は「事実と異なるメニューを作るつもりはないが、すれ違いが起きることはある」と話す。
■ブランドの形骸化
 問題が発覚したホテルや百貨店は名門店も少なくなかった。なぜ、名門店で問題を防げなかったのか。
 関西大商学部の陶山(すやま)計介教授(企業ブランド戦略)は「ブランドは長い年月をかけて築いた信頼の証。その中身が形骸化していたのではないか」と指摘する。
 陶山教授は「創業期にあった消費者との緊張関係が、いつしか空洞化し『これで大丈夫』となったのでは。どの業界にも通じるガバナンスの問題だ」と厳しい視線を送る。
 一方、消費者の行動と心理に詳しい「オラクルひと・しくみ研究所」(名古屋市)の小阪裕司代表は「だましてもうけようという思いではなく、単純に客を喜ばせようと、偽装でつじつまを合わせてしまったのではないか」と分析した上で「その意味では『悪人なき悪事』だったかもしれないが、顧客に食材などを正直に説明したとしても消費者はついてきたはずだ」と指摘した。

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