「1年前はこんな状況になるなんて、想定できなかった」。スーパーゼネコンの幹部はうれしい悲鳴を上げる。
ゼネコン業界が突然の活況に沸いている。今年10月の建設工事受注額(大手50社ベース)は前年同月に比べて約6割増で、7ヵ月連続のプラス。2012年度に計上された大型補正予算の執行と景気回復により、公共工事・民間工事とも拡大が続いている。さらに、国土強靱化、東京五輪、リニア中央新幹線など、今後も建設投資につながるイベントが控えている。
その一方で、突然の活況は業界が抱える構造問題を浮き彫りにした。深刻な人手不足だ。建設業関連の新規求人倍率はいずれも上昇。中でも、型枠・鉄筋など駆体工事にかかわる技能労働者への求人倍率は、10月に9倍を超えた。建設現場で働く労働者の需給は、少なくとも2000年以降で最も逼迫している。
■「生活保護を受けたほうがマシ」
なぜ、ここまで人がいないのか。建設業界は長期間にわたって市場が縮小し、その間、各社はダンピング(不当廉売)競争を繰り広げた。そのシワ寄せが末端の労働者に集中したのだ。
「職人の年収は200万円半ばから300万円台前半。1日現場に出ても1万円も稼げない」。鉄筋工事を手掛ける小黒組(東京都江東区)の内山聖会長はそう訴える。現場の職人をまとめる親方でも、年収400万円に届くかどうか。「もう親方なんて、呼べるような状態じゃない」(内山会長)。
低賃金化によって、社会保険料の支払いもままならない。国土交通省の昨年10月の調査では、建設業で働く人の約4割が法定3保険(雇用保険・健康保険・厚生年金)に未加入のままになっている。
建設現場で働くよりコンビニのアルバイトのほうがいいというのは、もはや業界の“定説”。現場からは「生活保護を受けたほうがよっぽどマシ」という声すら上がる。
特に賃金の低下がきつくなったのは、業界全体の受注量が激減したリーマンショック以降だという。これを機に、建設業界に見切りをつけ、多くの職人が現場から去った。業界で働く人の数は、15年前と比べて約180万人も減った。約27%の減少だ。従来から高齢化も進んでいたが、今では労働者の3人に1人が55歳以上となっている。
もともと建設現場は3K(危険・汚い・キツイ)職場と言われる。それでも人が集まっていたのは、それに見合う報酬を得ていたからだ。「かつては現場の技能労働者のほうが、ゼネコンの技術者よりよっぽど羽振りがよかった。技能労働者は現場に外車で乗り付け、ゼネコンの技術者は一番下の国産車、というのが定番だった」(スーパーゼネコン幹部)。それがこの現状では、業界を目指す若者など出てくるはずがない。
■業界の特異構造がカベ
国も対策に乗り出している。今春には公共工事にかかわる標準の労務単価を約15%引き上げた。労務単価の引き上げは実に16年ぶり。それでも低賃金が一足飛びに解消されるわけではない。
業界の特異な構造も、賃金適正化のカベになっている。建設業界は元受けから、1次下請け、2次下請けと幾層にも分かれている。元受けであるゼネコン自らが技能労働者を抱えることはなく、実際には2次以下の下請けが労働者を呼び集める。重層構造は10次以上にわたることもある。そのため、元受け段階で賃金が上がっても、それが末端の労働者までこぼれてくる保証がないのだ。
このままでは人手不足がボトルネックとなって、今後の建設投資が消化しきれない可能性がある。人手不足が露呈したことで、「世の中の関心がようやく技能労働者の待遇問題に向いてくれる」(内山会長)。五輪へと続く建設ラッシュに浮かれるよりも、まずは建設現場の現実に目を向けることが必要だ。
※ 週刊東洋経済2013年12月7日号(12月2日発売)では、突然の活況で浮沈するゼネコンの現状について、40ページにわたって特集を組んでいます。