人口減少の何が悪い?危機をあおるウソを高橋洋一氏が「未来年表」でバッサリ

人口減少・少子高齢化が社会問題となって久しいが、昨今、国立社会保障・人口問題研究所の推計をもとに作成された「未来年表」を表題に謳う本が、50万部を超す大ベストセラーになっている。

さらに、この本に続けとばかりに類書も多数出版され、今や書店に「未来年表」本のコーナーができそうなほどの人気だ。

とはいえ、この「未来年表」、ご想像の通り決してポシティブな未来を予測しているのではない。これらの本で語られているのは、人口減少・少子高齢化にともない、「労働人口が減る」「社会保障制度が破綻する」といった、ネガティブな未来。解決策こそ提案されているものの、我々の未来はどうやら“お先真っ暗”なようだ。

ところが……。

「人口の減少は、予想通りのこと。大した問題じゃない。労働人口が減る? 別にいいじゃないですか。社会保障制度の破綻? ない、ない(笑)」

そう語るのは、『未来年表 人口減少危機論のウソ』を上梓した数量政策学者の高橋洋一氏。

「そもそも、なんで人口減少を危機と捉える風潮があるのか、私にはまったく理解できない。正直、人口が減ると困る人たちが、意図的に扇動しているとしか思えませんね」

人口が減っても問題がないと考える理由は? 裏でブームを扇動する人たちとはいったい……、高橋氏に詳しく話を聞いてみた。

◆貧しくなるかどうかは、人口ではなく個人の生産にかかっている

まずは人口減少について。予想通りに人口が減るなら、たしかに問題への対応策を講じるのは、さほど難しいことではないように思える。

「例えばだけど、テスト問題があらかじめわかっているのに、回答を用意しないことってあると思います? 実際、2002年の人口推計から大きく予想は外れていないから、想定内のことが起きているだけ。なにの何で、みんな大騒ぎしているんだろう(笑)」

人口が減れば、GDP(国内総生産)が減り、日本は貧しい国になる。そんな気配も漂っている。

「人口が減少すれば、GDPも減るのは当たり前。GDPは平たく言えば、『みんなの平均給与×総人口』。つまり、大事なのは1人当たりのGDP(平均給与)だから『人口が減ったところで、どうなの?』という話に過ぎない。実際、人口増減率と1人当たりGDP成長率との相関関係を調べてみても、世界全体では、人口減少率が高いほど貧しくなる傾向があるけど、先進国に絞ると、そこに関係性は見当たりません」

◆社会保障制度のために人口を増やすという考えはナンセンス

なるほど。とはいえ、人口が減少すれば、税金を払う労働者人口が減り、年金や健康保険といった社会保障制度が成り立たなくなってしまう。一見すると、この論理、まったくツッコミどころがないように思えるのだが……。

「まず、制度設計の基礎となるデータは、少し先の人口の増減を予測しながら計算していく。保険料を支払う人が減れば、その分だけ給付額も減るように自動調整されるんです。だから、人口減少は社会保障制度の崩壊にはならない。これは、多くの人が勘違いしている点」

つまり、保険料を払う人が少なければ、貰える額も少ない。破綻こそしないが、不安には感じる。やはり人口を増やすために、少子化対策や移民政策を実施する必要があるのではないかと考えてしまう。

 

「少子化対策なんていくら考えたところで、結局は『男女がやるか、やらないか』の話。そもそも価値観の違う人たちに同じ対策を講じたって、うまくいきようがない。移民対策だって、政府は表向きには前向きだけど、外国人を受け入れることは社会問題になるリスクが高いから、積極的にはやらない。量を増やすか質を上げるかの話になるけど、それならまず、人口を増やすより経済成長をして1人当たりのGDPを増やすことの方が簡単でしょう」

地方でこそ「子供を産んで一人前」という考えがいまだ根強いが、都心部では男性に限らず、仕事に生き甲斐を見つける女性も多い。また、外国人の受け入れについては、犯罪だけでなく、生活保護の不正受給や留学生による高額医療の利用が社会問題になっている。たしかに、量より質を増やす方が、話は早いのかもしれない。

「実際、近年は最低賃金額も上昇しているし、失業率も下がっている。予測できないことを推し進めるよりは、こちらの方がはるかに賢いやり方でしょう。もちろん『人生100年時代』になれば、お上をあてにせず、各々が老後の準備をする必要はあるんですけどね」

◆人口減少危機論を煽るのは、地方公務員と無責任な人々

経済成長さえ遂げられれば、人口減少もさほど問題がないことはわかった。しかし世間では、なぜこれほどまでに人口減少に危機を感じるのだろうか?

「この『人口減少危機論=人口増加幸福論』を支持する“世間”とは、 主に地方公共団体の関係者だと私は見てる。人口が減り続けて、最も困るのは彼らですから」

その地域の人口が減れば当然、いずれは行政規模の適正化のため、市町村を合併しなければならない。民間企業なら支店を減らせば済むことだが、 地方公共団体はそうはいかない。

自治体が合併すれば、2つあった職場が1つで済むわけだから、課長や係長といったポストも少なくて済むようになる。さらに言えば、将来的に職場そのものがなくなる可能性だって大きい。

「1994年に約328万人もいた地方公務員の数は減少を続け、2017年には約274万人と50万人以上減った。そこで、地方役人らは何とかして糊口をしのごうと、「地域に人口を増やそう」と主張する。これが、自己保身的な危機感から人口減少危機論を支持する“世間”の正体ですよ」

しかし、人口減少危機論を煽るのは、彼らだけではないと高橋氏は続ける。

「いわゆるコメンテーターにも、こういった風潮を煽る輩が多い。何でも人口減少が原因と言っておけば済む。ちょっと前にも、デフレは人口減少が理由だと煽る本が売れて、いろんなコメンテーターがこの内容を支持した。デフレに限らず、何でも人口減少のためと言っておけば、誰も傷つかないので、これはいい方便(笑)。特に人口減少は実際に起こっていることだから、それと因果関係はなくとも、同時進行している社会の諸問題と関連付けて説明されると、一般の人は簡単に騙されちゃう」

人口減少危機論とはつまり、それが好都合な人たちによってまつり上げられたものだと高橋氏は言う。都合のいい話題に便乗するのは、世の常。「根拠のない通説」には、くれぐれもご注意を。 <取材・文/日刊SPA!取材班 協力/高橋洋一>

【高橋洋一】

嘉悦大学教授。1955年(昭和30年)、東京都生まれ。東京大学理学部数 学科・東京大学経済学部経済学科を卒業。博士(政策研究)。1980年(昭和55年)に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣参事官等を歴任した。第一次安倍内閣では経済政策のブレーンとして活躍。「霞が関埋蔵金」の公表や「ふるさと納税」「ねんきん定期便」などの政策を提案。11月2日に、最新刊『未来年表 人口減少危機論のウソ』(扶桑社)を出版。

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