人口8000万人時代―山口
人口減少と移民は、日本にとって切実な問題です。
2024年6月14日、出入国管理法改正案が参議院本会議で可決されました。これまでの「技能実習制度」を廃止して「育成就労制度」を設けるという内容です。政府は今後の5年間で、在留資格である「特定技能」の有資格者を最大82万人受け入れる方針ですが、詳細な制度設計はこれからです。
厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が、2070年の日本の人口推計値を出しています。人口は8700万人、そのうち外国人が10%強を占めます。本当に900万人近い外国人が日本に在留・永住するかは不透明ですが、人口が今の1億2500万人から8000万人台になるのは明らかです。
だから、その対策は喫緊の政策的課題なのです。移民の受け入れをどのような形でルール化するのか。すなわち日本社会のメンバーシップをどう考えるか。そして人口減少のスピードをすこしでも緩める方策を講じなければなりません。
日本の安全保障を考えた場合、人口が減って地域社会を維持できなくなるのは恐ろしいことだと思います。政府は効率性だけを重視し、政策立案に携わる側も都会の人ばかりになってきました。すると、地域の集落に人が住み、農林水産業を営むという昔からの国の形を、自分事として理解・共感できなくなります。
北海道には既に『空白地帯』発生の危機
すでに、人々が地域社会の生業を放棄する兆候が現れています。私は1984年から北海道大学で教鞭を執り、長く札幌に暮らしました。北海道では加速度的に人口が減り続け、集落が消えています。国立社会保障・人口問題研究所によれば、2050年に382万人まで減ることが推計されています。2020年が522万人でしたから、30年間で27%の人口減少です。
集落がなくなれば、行政も撤退します。たとえばオホーツク海の沿岸や、稚内から留萌にかけての日本海沿岸では人がいなくなったため、空白地帯が生まれようとしています。これは国土防衛の観点からも、非常に危険な状態です。
さらに言うなら、「安全保障」という言葉の意味を、もうすこし広くとらえるべきだと思います。いわゆる「限界集落」をすべて維持するのは無理だとしても、公的なリソースを地域に投下しながら、人口2000人くらいを単位に集落を守っていく。
佐藤さんが言われた「沖縄県枠での自衛官採用」のように、公務員として地域の人間を残さないといけません。それが広義での「安全保障」の知恵です。20年後には、その知恵を具体的に生かす必要が出てくると思います。
ローカルの力とマイルドヤンキー──佐藤
人口減少に関連して、私は「マイルドヤンキー」と呼ばれる若年層に注目しています。マーケティングアナリストの原田曜平さんが名づけ親ですが、北関東の中核都市周辺に住み、高校を卒業後すぐに結婚して子どもを3~4人つくる。「イオンモールがあれば幸せ」と言って東京に出てくることもなく、バンで移動するような人たちです。
新自由主義的な競争原理が進行すれば、「勝ち組」と「負け組」の選別が明瞭化され、「負け組」に入れられた若者は生き残れません。所得水準から子どもをつくることもできない。そう考えると、子だくさんの「マイルドヤンキー」が人口減少に歯止めをかけているのかもしれません。
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彼らは欲望の消費性向こそ強いですが、高望みはしません。従来の不良ほど攻撃性がなく、地元で仲間との絆を大切にします。
また先輩・後輩の繫がりから、人手不足も起きません。先輩たちが仕事の場を提供するからです。彼らは自動車整備工場やラブホテルを経営したり、介護事業にも乗り出したりするなど、多角経営で独自の生態系を形成しています。
そんな地方経営者を、投資家の藤野英人さんは「ヤンキーの虎」と説明します。「マイルドヤンキー」と「ヤンキーの虎」によるネットワークが、100%の就業率と人手不足解消を実現しているのです。
「マイルドヤンキー」たちは、モノを仕入れるのも市場原理とは異なり、仲間内ですませる傾向にあります。さらに、彼らは市議会議員など地域の政治エリートと一体化しています。
私は、こうした地方都市でたくましく生き残る人たちを見て、グローバリゼーションに抵抗しているのだなと思いました。ローカルの力は侮れません。そして、それがまた自民党の支持基盤になっているのです。
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