全国に先んじて労働力人口が減少に転じた東北で、新技術を駆使して、人手不足に立ち向かう企業が増えている。女性や高齢者の労働市場への参入が限界に近づく中、リモートワークやアプリによる人材シェアリング(共有)などを積極的に取り入れ、労働力の確保や業務の効率化に挑んでいる。(経済部・菊間深哉)
総務省の労働力調査によると、東北の労働力人口はグラフ①の通り。2023年は456万人で03年から9・1%減少した。全国は同期間に3・8%増えており、東北は先んじて労働力減少に突入した。働き手の確保が企業の存続に関わる問題となっている。
山形県酒田市の「楯(たて)の川酒造」は10年にリモートワークを導入した。現在は社員ら55人のうち、7人が首都圏や京都府、沖縄県で生活する。海外営業や電子商取引の担当者。東北では探すことが難しいスキルの持ち主を全国から集める。
菊本佳代国内営業部長は「酒田勤務を条件に求人を出しても、人は集まりづらい。住まいを変えずに日本酒業界で働きたいというニーズがある」と明かす。
デジタルトランスフォーメーション(DX)により、限られた人材で効率的な働き方を進めるのは、宮城県気仙沼市の水産加工会社「阿部長商店」。工場に22年、ペーパーレスの業務管理システム「カミナシ」を導入し、帳票作成に伴う月約100時間の業務を削減した。担当者は「帳票の記入や確認の手間が軽減し、付加価値の向上につながる業務に当てられる時間が増えた」と喜ぶ。
東北が深刻なのは若者の流出に加え、これまで労働力不足を補ってきた女性や高齢者のさらなる参入に多くを期待できない点だ。
東北で65歳未満の女性の働く割合(グラフ②)は既に76・8%(2023年)に達し、全国8地域で2位の高水準。労働力人口に占める65歳以上の高齢者の割合(グラフ(3))も16・4%と全国で最も高い。
国立社会保障・人口問題研究所の20~50年の将来推計人口によると、東北は全国最悪の31・6%減となる見込みで、高齢者人口も来年をピークに減少に転じる。
先細る労働力の効率的な活用に向け、注目されるのが人材シェアリングだ。東北の基幹産業の農業分野では、作物ごとに農繁期が異なることに着目し、地域内で人材を融通し合う試みが広がっている。
山形県は1日単位の農業アルバイト募集アプリ「daywork(デイワーク)」の活用を行政やJAが呼びかけ、23年度は県内で1万3100人が果樹農園などで働いた。休日などを利用した副業として、企業が従業員にアプリの利用を促す事例も出てきている。
デイワークを使う宮城県東松島市の農業法人「イグナルファーム」の担当者は「平日の求人でも年金生活者や主婦、ダブルワーク希望者らがすぐに集まる。とても使い勝手がいい」と手応えを語る。
「産学官金でサポートを」 日銀仙台支店長・岡山和裕氏に聞く
日銀仙台支店は人手不足が深刻化する東北の企業が、さまざまな労働力確保策を進めている現状をまとめたリポートを公表した。岡山和裕支店長に現状や今後の展望などを聞いた。(1面に関連記事)
-東北の労働力人口の減少をどう見ているか。
「若者が減る中、女性や高齢者が労働市場に参入し、補ってきた。女性や高齢者が働きやすい職場環境に改善され、女性の正規雇用率の高さ、出産・育児による退職割合の低さは共に全国1位だ。企業は人手不足が避けられない中でも打開策を見つけようと努めてきた」
-人手不足は東北の経済にどう影響するか。
「設備投資をする余力があったとしても、人手不足では二の足を踏んでしまい、本来得られるべき利益を逸してしまう。労働力をどう確保するか、生産性をどう向上させるかは、東北の企業の喫緊の課題だ」
-労働力の確保に向け、先進的な取り組みを始めた東北の企業もある。
「企業ごとに人材確保の課題は異なり、戦略は変わる。例えば、リモートワークや海外進出を通じて専門人材などを採用する動きが見られる。他社との連携で繁閑の差を利用して労働力を融通し合ったり、企業の合併・買収(M&A)を活用して資格保有者を確保したりするケースもある。デジタルトランスフォーメーション(DX)やリスキリング(学び直し)による生産性向上も進んできた」
-今後、東北の企業に求められることは。
「人手不足が続く前提で事業戦略を描く必要がある。幅広い展開が難しければ、得意分野に特化するなどめりはりの利いた経営がこれまで以上に求められる。東北の企業の新たな試みを産学官金の外部組織がサポートしていってほしい」