今年7月に米国コロラド州で開催される人気のヒルクライムレース「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」に、日本から有力メーカーの電気自動車(EV)の参戦が決まり、話題を集めている。
パイクスピークはロッキー山脈にある標高4300メートルのパイクスピーク山の中腹から頂上まで、1500メートルの標高差を最速10分弱で一気に登坂する過酷なモータースポーツ。今回のEVの参戦は、EVがガソリンエンジンに比べ、環境性能だけでなく、耐久性やパフォーマンスでも優れていることを内外に示すのが狙いという。
「モンスター田嶋」に注目
参戦を表明したのは、パイクスピークを昨年まで6連覇した世界チャンピオン「モンスター田嶋」こと田嶋伸博選手が社長を務める車輌開発の「タジマモーターコーポレーション」だ。三菱重工業の高性能バッテリーを搭載した専用のマシンを開発、田嶋選手がドライブする。
EVの普及を目指す企業などで組織する「電気自動車普及協議会」がタジマモーターとともに実行委員会を組織。「日本の持つ最先端技術を結集して、従来の内燃機関(エンジン)車を超える性能のEVを開発する」という。
今年62歳になる田嶋選手は全日本ダートトライアル選手権で活躍した名ドライバーで、パイクスピークは昨年までの6連覇を含め、総合優勝7回を誇る。これまでの最速タイムは9分51秒278で、田嶋選手は「自身のエンジンカーの世界記録に挑戦することで、EV時代の到来を世界中にアピールしたい」としている。
パイクスピークのガソリンエンジンの出力は1000馬力近くに達するため、今回はEVで700馬力の競技専用マシンを開発するという。もちろん高出力のモーターとバッテリーが必要となり、重さがネックとなるが、急登坂ながら最短10分という競技の特徴を生かし、最小限の高性能バッテリーを積むことなどで軽量化を図るとみられる。
三菱重工は「今回のヒルクライム用の電池は高容量のものではなく、瞬時に大電流を流すことで、瞬発力と加速性を兼ね備えた電池にする」と説明している。 このほか、今回のパイクスピークには、三菱自動車が市販のEV「i-MiEV(アイ・ミーブ)」のプロトタイプで参戦すると発表した。ラリーレイドドライバーの増岡浩選手をドライバーに起用する。三菱自動車は「今回出場するプロトタイプはアイ・ミーブで使われているEVのコンポーネントを使用する予定だ。このレースで得られた結果は、今後市販する予定の電動車両(EVやプラグインハイブリッドカー)の耐久性や信頼性に役立てたい」としている。
一方、パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムの公式ホームページによると、トヨタ自動車の子会社でドイツに本社を置く「トヨタモータースポーツグループ」(TMG)も専用開発のEV(TMG EV P001)で参戦するという。TMGが開発したP001は、EVとしてドイツの高速サーキット「ニュルブルクリンク ノルドシュライフェ」で昨年8月、7分47秒の好記録を達成したモデル。パイクスピークでは日本を代表するラリードライバー、奴田原文雄選手がドライブするという。
標高4300メートルまで標高差1500メートルを一気に駆け上がるパイクスピークは、スタート地点とゴール地点で気圧、気温、天候などの条件が大きく変化する。空気の薄い高地でガソリンエンジンはパワーダウンが問題となるが、この点、モーター駆動のEVは気圧などに影響されにくく、モーター特有の高トルクを生かし、ガソリンエンジンを凌駕する可能性がある。世界的に人気のヒルクライムレースで、日本人ドライバーがドライブするEVの活躍が期待される。