強引に女性の肩を抱くえびすじゃっぷリーダーのフジ。けす(中央左)も女性の肩を抱き、森山(左)は女性の頭を撫で回した(画像はYouTubeチャンネル「EvisJap/えびすじゃっぷ」より。当該動画は削除済み。堀川さんや通行人の顔は編集部でぼかし処理をしています)
まだ新型コロナウイルスの気配もなかった2019年5月。東京・渋谷のセンター街は、外国人観光客や若者たちで賑わっていた。
慶應義塾大学2年(当時)の堀川健三さん(仮名)は、仲間との飲み会のあと、当時交際していた女性や、友人と駅へと歩いていた。少し飲み足りなかった堀川さんの片手には缶チューハイ。褒められたことではないが、コロナ禍の前は、よく見られた光景だった。
「ナンパには気をつけろよ~」
そんな男の声に堀川さんが振り返ると、彼女が3人の男性に囲まれていた。3人は「こういうおじさんには気をつけたほうがいい」「渋谷ヤベエから」と言いながら女性を抱き寄せ、頭を撫で回した。女性は酔いもあり、まるで抵抗できなかった。
堀川さんは駆け寄ると、一人の男性の肩を軽く押し「やめてください」と抗議した。3人は「怒ってる怒ってる」「ガチで彼女だった」と叫び、「すいませんでした~」と、ふざけて土下座してみせた。堀川さんが当時を振り返る。
「そのときは『彼女を助けたい』ということに意識が働き、撮影者がいたことにまったく気がつきませんでした」
不愉快な記憶が薄れはじめた後日、堀川さんのもとに複数の友人から連絡があった。
「YouTubeに出てるよ」
タイトルは「渋谷でナンパしてたらヤンキーの彼氏にブチギレられたwww」。配信者は、現在46万人の登録者数を持つ人気YouTuber「えびすじゃっぷ」だった。
「まず、あのとき撮影されていたことにすごく驚きましたが、自分の顔がモザイクなしで小馬鹿にされた形で使われていて、心臓が締めつけられるような気持ちになりました」
えびすじゃっぷは、早稲田大学中退のフジ(28)、慶應大学卒の森山(29)、けす(29)の3人組で、2019年に結成。
「Tinderで1000人に『エ〇チしよ』って送ったらさすがにイケる説」「パパ活女子を飲みに誘って食い逃げしてみた」など、ナンパやセックスをテーマにした過激な動画で人気を呼んでいる。
今年6月には「文春オンライン」で、人気YouTuber31名によるパーティに参加したフジと森山が、路上で立ち小便している姿を報じられている。
堀川さんが語る。
「すぐにフジさんのSNSに、動画を削除するようメッセージを送りましたが、返信はありませんでした。動画は最終的に66万回も再生され、僕の容姿に対する誹謗中傷のコメントが多数ついても、どうすることもできませんでした」
2020年5月、堀川さんはSNSで福永活也弁護士の存在を知る。誹謗中傷問題を多く手掛ける第一人者だ。
「なんの落ち度もない人が挑発され、馬鹿にされ、顔を晒されました。泣き寝入りさせるわけにはいかないと思いました」(福永弁護士)
2020年7月、堀川さんはえびすじゃっぷの3人を提訴。無断で動画をアップしたことに対する肖像権侵害、ヤンキー呼ばわりされたことに対する名誉感情の侵害と名誉毀損への損害賠償を求めた。
今年3月、東京地裁は堀川さんの主張を全面的に認め、えびすじゃっぷに66万円の支払いを命ずる判決を下した。
「動画は判決前に削除されましたが、判決後に3人は別の動画で『控訴しようぜ』『あのガキ(堀川さん)のことは忘れようぜ』などと挑発。我々も、賠償金を増額すべきだと反訴しました」(福永弁護士)
8月20日、賠償金は76万円に増額され、東京高裁で和解が成立した。えびすじゃっぷのリーダー・フジが取材に応じた。
「今はこちらが100%悪いと思っています。当時、僕らはチャンネルの登録者数が少なく、プライバシー問題について配慮が足りていませんでした。動画の削除を希望するメッセージは、たしかに受け取っています。そのときは “撮れ高” を気にして、気づかないふりをしてしまいました」
裁判への出廷がかなわず、加害の実感がわかなかった。そのため、判決後も挑発的な動画を上げてしまったという。
「動画ではキャラを演じている部分もあるのですが、僕らが被害者の方のことを考えていなかったのは事実です。ご本人に申し訳なかったとお伝えいただけますか」
堀川さんが今の心境を語る。
「裁判期間中、事情を知らない友人から『えびすじゃっぷってマジおもしろいよ』と言われ、落ち込んだりもしました。多くの人に笑いを届けられる人たちですから、誰かを傷つけるのは、もうやめにしてほしいです」
(週刊FLASH 2021年9月21日号)