■20代、30代、40代 転職で年収が上がる人の条件
「年功的賃金の本体では採用が難しいので、別会社をつくって、年収2000万~3000万円で若いAIエンジニアや半導体技術者を採用している大手企業もあります」
こう語るのは転職情報サイトの「リクナビNEXT」の藤井薫編集長だ。年収5000万円を提示する中国系企業もあり、日本の大手もなりふり構ってはいられない状況だ。大手の中には給与をめぐる正社員間の軋轢を避けるため、契約社員にして高額の年俸を支払う企業も少なくない。
需要が高いのはテクノロジー系の人材に限らない。あらゆる職種で求人が殺到している。正社員の求人数を登録者数で割った2月の転職求人倍率は1.80倍(リクルートキャリア調べ)。職種別の求人数は前月比で34職種中19職種が増加。登録者数も29職種が増加し、うち24職種は過去最高となっている。転職者数は2013年の287万人から17年は311万人に増加している(総務省「労働力調査結果」)。
しかも35歳転職限界説が崩壊して久しいが、40歳以上の転職者も増加している。人材紹介業大手のJACリクルートメントの黒澤敏浩フェローは「40代の増加はもちろん、50代の転職決定者が13年から17年の間に4.2倍に増え、全体の1割を占めている」と語る。
転職求人倍率職種のトップは「インターネット専門職」(Webエンジニア含む)の5.66倍、続いて「組込・制御ソフトウエア開発エンジニア」の4.77倍、建設エンジニアの4.22倍だ。インターネット専門職は「IT企業に限らず小売業などウェブを販売ツールに使う多くの企業が欲しがり、組込・制御ソフトウエア開発はAI技術やIoTも含めて機械にソフトを組み込む電機・自動車などのメーカーが最も欲しがる職種で、ともにITエンジニア。1人を約6社が取り合っているイメージです」(藤井編集長)。
■ITエンジニアは最低でも600万円
当然、転職後の年収も高い。黒澤氏は「ITエンジニアはとにかく給与をたくさん出すので欲しいという企業が多い。技術レベルによるが最低でも600万円。年齢に関係なく上限は2000万円ぐらい。正社員として最初から高い年収で入るとプレッシャーもあるので、入社時に一時金として100万円を出す企業もある」と語る。
だが、あらゆる職種が売り手市場にあるとはいえ、前職より高い年収で転職できる人は多くはない。黒澤氏は「景気がよいので転職しやすくなっているが、収益に直結する一部の高い専門性を持つ人を除いて、給与が同じか下がるのが普通だ。現在の会社でそれなりに貢献していても他の会社に移ると環境が変わるので当初は貢献度が下がるために給与を下げて入るのが一般的」と指摘する。
エン・ジャパンの「エン転職」の岡田康豊編集長も「35歳以上のミドルの転職では平均100万円程度下がっている。35歳で前職が500万~600万円なら400万円後半から500万円未満。40代以上で1000万円なら800万円ぐらいに下げて転職するのが普通」と指摘する。
転職時にいったん年収を下げても実力次第で上がる余地は十分にある。藤井編集長は転職で年収が上がる人の共通要素をこう説明する。
「20代は、上司に言われなくても自ら本当にやるべき課題を見つけることができる人。30代は、様々なデータを駆使してスピード感を持って課題を解決できる人。もう1つは社内のリソースだけでなく社外の異質なものと組み合わせて解決する力を持つ人。40代は、社内外の人脈を駆使し、データ処理が得意な人や予算に強い人など異質なメンバーを束ねて成果を出せるプロジェクトマネジメント能力を持つ人です」
とくに40代で転職に成功する人は「20代から培った経験を活かし、新たな仕事で課題を発見することから始め、その課題を解決し、チームを束ねることを繰り返しできるアクティブな人が多い」(藤井編集長)と語る。
■ミドル層の異業種への転職成功の分岐点
近年、異業種への転職が増加している。リクルートキャリアの調査では異業種への転職が同業種をはるかに上回る。その背景には「未経験者歓迎の求人が全体の77%を占めている」(岡田編集長)ことに加えて「ほかにやりたい仕事がある」「会社の将来性が不安」を転職理由に挙げている人が圧倒的に多いからだ(DODA調査、17年11月)。自分のキャリアや会社の将来を見据えた転職志向は銀行業界でも顕著だ。大手メガバンクは業務や支店の統廃合を含めた中長期的な合理化策を打ち出しているが、黒澤氏は「銀行を中心に金融業界出身者の登録と異業種への転職が増えている。先行きに不安を感じ、早めに別の業種に転職したいという思いがある」と指摘する。
ミドル層の異業種への転職成功の分岐点になるのが今までの仕事の“棚卸し”ができているかどうかだ。
「大企業出身者であれば一定の専門性と何らかのマネジメント経験があるが、単に課長や部長をやっていました程度しか説明できない人が多い。どういうメンバーに対してどのようなマネジメントをしていたかという方法論や自分の考え方、思想を明確に説明できること、さらに専門性を説明するために仕事の経験の棚卸しをして、得手不得手を整理することが重要」(岡田編集長)
■今、高給が狙える「転職求人倍率」ベスト3
藤井編集長も「自分のスキルを職種、能力開発、ビジネスヒューマンスキルの3つに分けて説明ができること。中身もセキュリティに強い、業界の利益構造に詳しい、国境を超えたビジネスのコラボレーションをやったなど、強みをきめ細かく棚卸しすれば、同業界でなくても通用する」と指摘する。
最後に、決して会社に辞表を出してから転職しないこと。「辞めた後の転職では年収は下がるケースがほとんど。次の仕事を決めてから転職するのが年収を下げない秘訣」(黒澤氏)と言う。
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人気が高い各種エンジニア職。前年同月と比較すると、転職求人倍率1位、2位の職種では、登録者数も増えているが、求人数がそれに勝る勢いで増えている。
1:インターネット専門職(Webエンジニア含む) 5.66倍
2:組込・制御ソフトウエア開発エンジニア 4.77倍
3:建設エンジニア 4.22倍
(リクルートキャリアが提供する転職支援サービス「リクルートエージェント」における2018年2月末日時点の転職求人倍率より
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(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)