今、マーケターに求められる「ストーリーテリング」の力

急速に進む、ソーシャルメディアの動画シフト

 本格的な5G時代の到来が迫り、ますます注目が集まる「動画」市場。今後のコンテンツマーケティング、中でもソーシャルメディアマーケティングの成功には、「動画コンテンツ」が欠かせない存在となりそうです。

 ソーシャルマーケティングツールを提供するBuzzSumoの最新調査によると、Facebookの投稿コンテンツのなかで、最もユーザーエンゲージメントを獲得できるものは「動画(Video)」であり、「写真(Photo)」や「Webページのリンクをシェアする投稿(Links)」は、動画コンテンツの半分、またはそれ以下の効果とされています。

出典:The 2019 Ultimate Guide to Facebook Engagement | BuzzSumo
出典:The 2019 Ultimate Guide to Facebook Engagement | BuzzSumo

 ある出版社の事例では、2017年から2018年にかけてFacebookからWebサイトの参照トラフィックが87%も下落したと言います。最新記事のリンクをFacebookに投稿するという施策を継続して行っていたそうですが、マーケティング効果は以前の約1/10まで低下したのです(出典:Slate’s Facebook traffic has dropped by 87 percent since 2017. | NiemanLab)。

 数年前には「Webページのリンクをソーシャルメディアでシェア・拡散させ、大量のトラフィックを獲得する」といった成功事例もありましたが、最近ではあまり耳にしなくなりました。原因としては、Facebookユーザーの態度変容(リンクのシェアよりも動画のシェアを好むユーザーの増加)や、Facebookのアルゴリズム変更などが考えられます。先進的な米国企業はこうした変化を踏まえ、Facebookの投稿をすべて動画コンテンツにするなどの対応を開始しています。

コンテンツマーケの主戦場も「動画」へ

 また、Instagramではスライドショー形式の動画コンテンツ「ストーリー」の投稿件数・視聴時間が右肩上がりで増加しており、YouTubeでは視聴時間が世界合計で1日あたり10億時間以上になるなど、ソーシャルメディアの動画シフトは急速に進んでいます。

 こうした背景もあり、近年、コンテンツマーケティングの主戦場も「動画」へと移りつつあります。しかし、YouTubeやFacebook、Instagram等のプラットフォーム上には既に多数の動画コンテンツが溢れており、ただ動画を制作・掲載するだけのマーケティング施策では、効果を得ることが難しくなってきています

 そこで昨今米国で注目されているのが、動画の視聴者を最後までコンテンツに引き込むような“物語”を作る「ストーリーテリング」という手法です。

マーケターは“物語の語り手”となる必要がある

 ストーリーテリングそのものは新しい考え方ではなく、古くから“物語の作り方”として絵本や昔話、小説、映画などで幅広く用いられてきた手法です。視聴者を最後まで強く惹き付ける必要のある動画マーケティングや、ブログやメールマガジンなどのコンテンツ全般、また“チャットボット”の台詞1つ考える上でも、ストーリーテリングの考え方は効果的だと注目されています。

 コンテンツマーケターにとって、“良い物語の語り手”であることは欠かせないスキル・素養の1つとも言えるかもしれません。実際に米国では、新聞や雑誌のジャーナリスト経験者をコンテンツマーケターのポジションに採用するような動きも活発化しています。

ストーリーテリングの基本「Story Spine(物語の構成)」

 ストーリーテリングの基本形は「Story Spine」と呼ばれる物語の構成で、「物語の主人公が課題や問題に直面する→それを克服して成長する→ハッピーエンドで終わる」というのが基本的な流れです。

 この物語の力をビジネスに応用した代表例の1つが、アップルの創業者スティーブ・ジョブス氏のスピーチです。2005年6月、スタンフォード大学卒業式で行われたジョブス氏の有名なスピーチ「ハングリーであれ。愚か者であれ」は、ストーリーテリングの手法に沿った内容でした。 【ジョブス氏のスピーチ】

1.昔々あるところに、幼い頃に養子に出された私(ジョブス氏)がいました。

2.大学まで行かせてもらったものの、人生で何をしたいのかわからず、大学に通う意味を見出せずにいました。

3.ある日のことです、大学を中退し、自宅のガレージでアップルを創業しました。自分が打ち込めることに出会えたのです。

4.だから、30歳の時に経営方針の違いでアップルから追放された後も、NeXTやアニメーション映画会社・ピクサーを立ち上げられたのです。

5.アップルから一度追放されるという挫折を経験し、それでも自分の仕事が心の底から素晴らしい仕事だと思えたからこそ、アップルに戻った後も創造的な仕事ができたのです。

6.そして、ついにアップルは時価総額1兆ドル以上の世界的企業になりました(みなさんも自分が打ち込める仕事を探し続けてください、立ち止まっていてはいけません)。

 ジョブス氏がアップル創業から現在までの出来事を時系列で話しただけでは、これほど有名なスピーチにはならなかったでしょう。このスピーチが有名になったのは、内容にストーリー性があったからだと考えられます。

アクションを促す、ストーリーテリング4つのポイント

 スティーブ・ジョブス氏のスピーチの事例のように、ビジネスの世界でも“物語”を語ることは有効です。ただ商品・サービスの特徴を謳うだけの「広告」ではなく、消費者の共感を引き起こすような「物語」は、アクションへの動機・コンバージョンを高めます

 では、ストーリーテリングを実際のコンテンツマーケティングで活用するためにはどうすれば良いでしょうか。ここでは、良いストーリーテリングを生み出す4つのポイントを紹介します。

1.感情移入・自己投影(物語の主人公はユーザーや顧客)できる内容にする

 読み手や視聴者の深い共感を得るためには、物語の主人公をユーザーや顧客とし、感情移入・自己投影を促すコンテンツにすることが理想です。コンテンツの読み手や視聴者に「これ、自分と同じだ」「これ、私のこと言ってる?」などの感覚を引き起こせれば、良いストーリーテリングと言えるでしょう。

2.最初の8秒間で惹きつける

 Webページでも動画でも、ユーザーは最初の8秒間でコンテンツを見続けるか、離脱するかを決めると言われています。必ず最初の8秒以内に(Webページであれば冒頭の文章で)、コンテンツの主題・テーマを明確に伝え、読み手・視聴者の興味を惹きつけることが必要です。

3.小学生が見ても理解できる程度の”わかりやすさ”を意識する

 誰が見ても同じように理解でき、記憶に残るようなストーリーテリングであることはコンテンツマーケティングの成功条件の1つです。難解な物語や複雑な内容では、すぐにユーザーや顧客の離脱を招きます

4.テンポや緊張感を保ち、30秒間から1分間で完結する

 FacebookのタイムラインやYouTubeの動画再生画面を想像してください。動画の周りには、次の動画へのリンクが多数存在します。少しでもコンテンツに飽きれば、ユーザーはすぐに別のコンテンツへと離脱するでしょう。これを防ぐには、速いテンポでコンテンツを展開することが重要です。特にFacebookやInstagram向けの動画の長さは、30秒間から1分以内が理想とされています。

ストーリーテリングを活用した動画マーケティングの成功事例

 最後に、ストーリーテリングの条件に合致した、米国での動画マーケティングの成功事例をいくつか紹介します。どれも動画コンテンツの主役が顧客やユーザーであり、Facebookなどのプラットフォーム向けに作られた、30秒ほどの長さの動画コンテンツです。

ストーリーテリング事例1:セントジュード小児研究病院

 米国テネシー州メンフィスにあるセントジュード小児研究病院は、小児の難病治療・研究で世界的に有名な病院です。今回紹介する動画は、同病院のFacebookページにポストされたもの。わずか30秒の動画ですが、同病院の存在価値や意義が十分に伝わる内容となっています。

ストーリーテリング事例2:Manhattan Mini Storage

 米国ニューヨークにある個人向けストレージ(倉庫)を提供するManhattan Mini Storageは、2018年に「Mini Stores」と言う動画のマーケティングキャンペーンを展開し、話題となりました。実在の顧客からストレージに関連するストーリーを集め、その物語(実話)を演劇・ミュージカル・パントマイムなど、様々な方法でニューヨークのアーティストが再現するという企画です。

 以上、ストーリーテリング手法の活用など、米国でのコンテンツマーケティング、特に動画マーケティングの最新動向や事例を紹介しました。ビジネスに“物語”を組み込むことは、動画コンテンツだけでなく、会社のホームページコンテンツ(特に会社の沿革やブランドストーリーなど)、顧客向けのプレゼンテーション資料など、様々な場面で有効な考え方です。

 これからの時代、マーケターは物語の良い語り手である必要があります。上質な物語は、会社やブランド、商品、サービスの魅力を広く伝え、我々のマーケティング活動を成功に導くでしょう。

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