・今後、年金が減額される可能性は高い
・月5万円の収入を得るのが賢い働き方
・できれば「好きなこと」で収入を得たい
年金プラス10万円の収入を確保し、定年後はゆとりある生活をしていきたいという趣旨で当連載を開始した。しかし、「ゆとり」どころか、「そうせざるを得ない」時代が近づいてきているようだ。今月、『長生き地獄 資産尽き、狂ったマネープランへの処方箋』(角川新書)を出版した経済アナリストの森永卓郎さんに実態を聞いた。
森永さんの試算によると、今から31年後の2052年、夫婦2人のモデル年金は12万9000円に下がる可能性が高いという。もちろん、これからの30年間で給与収入が伸びる可能性はゼロではないが期待薄だ。年金を支える若い世代の数が急激に減少していくことは明らかだからだ。
同試算では、現在40代の会社員がその事態に直面することになる。ミドル・シニア世代の会社員はやはり、心構えや準備を急いだ方がよさそうだ。
その準備として、定年後も働いてフロー収入を得るべきなのだろうか? 森永さんは次のように言う。
「働くのは賛成です。しかし、お金のためだけに働くというのはつらくないですか?」
かなりの年齢になって、したくもない仕事で汲々とするのはつらい。自分の人生は何なのか…と悩むことになる。ならば、せめて好きな仕事に従事したい。しかし、好きな仕事が満足な収入を得られるとはかぎらない。
そこで森永さんは次のような考え方を示す。
「平均的な厚生年金受給者の場合、無税で給与収入を増やせるのは年間65万円までです。厚生年金受給者が、老後もずっと月額5万4000円の給与をもらい続けるのが、税制面を考えると賢い働き方です」
つまり、夫婦それぞれが好きなことで月額5万円ずつを得られるような生活を目指すということだ。
例えば法人をつくり、そこから給与を得る方法もある。この金額に収まれば、収入がすべて給与所得控除と調整控除で控除されるので所得が発生しない。すなわち所得ゼロなので所得税も年金保険料の支払いも必要がないということだ。
当連載は年金プラス10万円をテーマにしてきたが、見方を変えれば、夫婦それぞれ5万円ずつ稼いで合算していくのも賢い方法のようだ。
定年後の過ごし方のひとつとして、森永さんは「住み開き(すみびらき)」を挙げた。これは文化活動家のアサダワタル氏が提唱するもので、自分の家や個人事務所などを一部限定的にカフェやギャラリーなどとして地域に開放することだ。もちろん、大きな収入はまず望めない。しかし、コミュニケーションの場が広がり、心豊かに過ごすことはできるだろう。
森永さんも趣味で集めたアイテムの博物館を運営している。「しかし、これは赤字続きなんですよ」と笑うが、そのほかにも自宅近くで農業を営んでいる。「採れた作物は近所に配ったりしていますが、無人販売所などにもできるかもしれません」と言う。
今回の年金減額の話を聞いて「先の話だから関係ない」と思う人はいないだろう。現在の日本の財政状況を考えると、やはり定年後に何らかのフロー収入を得る準備は必要だ。
■藤木俊明 副業評論家。自分のペースで働き、適正な報酬と社会とのつながりを得ることで心身の健康を目指す「複業」を推奨。著書に『複業のはじめ方』(同文舘出版)など。