今では「失礼」になってしまった昭和の「マナー」

 常識は変遷するもの。環境に適応することが生物にとって最も必要な要件だ。大人力について日々研究を重ねるコラムニストの石原壮一郎氏がレポートする。

 * * *
「失礼」に正解はありません。時代や地域によっても変化するし、何を「失礼」と感じるかは人によってバラバラ。その人だけが持っている「失礼の地雷」を踏んで、ややこしい事態になるケースも多々あります。

 おっさん世代として、とくに意識したいのは「時代による失礼の変化」。たとえば上司や部下の自宅宛に年賀状を出すことは、昭和の時代は「礼儀正しくて望ましいマナー」でした。しかし、今は「失礼な行為」と受け取られかねません。

 よかれと思って、うっかり「失礼」を働いて後ろ指を指されないように、「昭和の時代は当たり前のマナーとされていたけど、令和の今は『失礼』と感じさせそうな行為」をチェックしてみましょう。

◆【ビジネス編】今では「失礼」になってしまった昭和の「マナー」10選

・取引先に迷惑をかけたら、取るものも取り合えず駆けつけて謝る
(いきなり押し掛けるのは単なる自己満足。相手にとっては迷惑です)

・仕事関係で初めて連絡を取る相手には、まず電話をする
(まずはメールでコンタクトを取るのが丁寧なやり方です)

・仕事で知り合った人にはプライベートな話題を振って距離を縮める
(かつてはそれが大切な「コミュニケーション力」でした)

・上司や先輩が引っ越しをするときに「手伝いに行きます」と申し出る
(引っ越しの手伝いは部下や後輩にとって、ある意味「義務」でした)

・おニューの服を着てきた女性には「似合うね」などとホメ言葉を贈る
(何も触れないと「気の利かないヤツ」と心の中で非難される可能性も)

・独身の女性部下に「いいお嫁さんになれるよ」というホメ言葉を贈る
(女性に対する万能のホメ言葉でしたが、今やリスクしかありません)

・海外出張に行く人に餞別をわたしたり空港まで見送りに行ったりする
(そして見送られた人は大量のお土産を買ってくるのがマナーでした)

・会議や打ち合わせは当初の約束を少しオーバーするまで続ける
(早めに終わるのは、ヤル気や熱意に欠ける「失礼」な行為でした)

・目上の人にお酒を注いだときは盃を受け取ってお流れを頂戴する
(コロナ禍とは関係なく、もはやほぼ絶滅したゴマのすり方です)

・宴席でビールの減りが遅い人がいたら「飲んで飲んで」と勧める
(勧められた側はグラスのビールを飲み干すのがマナーでした

◆【日常生活編】今では「失礼」になってしまった昭和の「マナー」10選

・お店や駅のトイレで個室に入るときにノックをする
(今はよっぽどの非常事態でない限り、ノックする人はいません)

・目上の人と温泉や銭湯に行ったときには相手の背中を流す
(「お背中、流させてください」と言わないのは、失礼なことでした)

・新婚カップルに「次はかわいい赤ちゃんだね」と激励の言葉を贈る
(結婚を祝福することと、二世の誕生を期待することはセットでした)

・独身の男性に「早くいい人を見つけなきゃね」と激励の言葉を贈る
(悪気はありませんが、穏やかに聞き流してもらえるとは限りません)

・女の子の赤ちゃんを見たら「将来は女優かアイドルだね」とホメる
(かといって「博士か大臣か」と言えばいいわけではありません)

・大学に入学した親戚の子が家に来たらビールなどを勧める
(多くの場合は未成年ですけど、大人扱いするのがマナーでした)

・新婚旅行に出かけるカップルを駅のホームで大勢で見送る
(結婚式からそのまま新婚旅行に行くこと自体、ほぼ絶滅しました)

・タバコの吸い殻は植え込みや線路など邪魔にならない場所に捨てる
(排水溝に突っ込むのも同様。それが「ちゃんとした行為」でした)

・飲み会などで大皿から料理を取るときには「逆さ箸」にする
(気持ちはわかりますが、取り分けるための箸をもらいましょう)

・兄の配偶者が自分より年下でも「おねえさん」と呼ぶ
(間違ってはいませんが「○○さん」と名前で呼ぶのが無難です)

 ビジネス編と日常生活編、それぞれ10の項目のうち、自分がやっていそうなもの、なぜこれが「失礼」なのかピンとこないものは、いくつありましたか?

 どちらかが6項目以上、もしくはふたつ合わせて10項目以上あった場合は、かなり深刻な「昭和マナー脳」です。間違いなく、周囲(とくに若者)にヒンシュクを買っているでしょう。悪いことは言いません、今すぐ心を入れ替えることをお勧めします。

 いっぽうで、他人の「失礼」に激しく目くじらを立てるのも、それはそれで「失礼」というか、人生を無駄に不愉快にしている態度です。「失礼」の基準なんて、しょせん時代の空気や相手との関係で移り変わる程度のもの。「正義」の威を借りて非難する快感に溺れるより、鼻で笑い飛ばしましょう。

 ここにあげた項目に対して「自分の感覚と違う」と感じても、同様に「ま、これはこれでよし」と広い心で流していただけたら幸いです。ネット界隈には、マナーの話になると反射的にいきり立つ人が少なくありませんよね。おっと、失礼いたしました。

タイトルとURLをコピーしました