今の若者「皆の前でほめられたくない」心理の正体 「いい子症候群」にモヤモヤする上の世代の目線

『先生、どうか皆の前でほめないで下さい: いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)の著者、金間大介氏が指摘しているように、いまの若者に対して「素直でいい子」「まじめでいい子」という印象を抱いている上の世代の方は少なくないだろう。またその反面、「なにを考えているのかよくわからない」「意志を感じない」と感じてもいるかもしれない。

 個人的には「必要以上に繊細」「ビックリするほど打たれ弱い」などもその特徴として挙げたい気がするが、いずれにしても上の世代からすればわかりづらい部分があるわけだ。

「いい子」の行動原則

 金間氏はそんな彼らを「いい子」と表現し、その行動原則を以下のようにまとめている。

<・周りと仲良くでき、協調性がある

・一見、さわやかで若者らしさがある

・学校や職場などでは横並びが基本

・5人で順番を決めるときは3番目か4番目を狙う

・言われたことはやるけど、それ以上のことはやらない

・人の意見はよく聞くけど、自分の意見は言わない

・悪い報告はギリギリまでしない

・質問しない

・タテのつながりを怖がり、ヨコの空気を大事にする

・授業や会議では後方で気配を消し、集団と化す

・オンラインでも気配を消し、集団と化す

・自分を含むグループ全体に対する問いかけには反応しない

・ルールには従う

・一番嫌いな役割はリーダー

・自己肯定感が低い

・競争が嫌い

・特にやりたいことはない

(22〜23ページより)>

身近にいる若者のことを思い出し、「なるほど」と感じる方も多いのではないだろうか。本書では、こうした行動原則や心理的特徴を「いい子症候群」と定義しており、年代としては大学生から20代半ばまでを想定している。

 特筆すべきは、大学教授という立場上、金間氏が彼ら「いい子」たちの生態を目の当たりにしていることだ。つまり本書の内容は、実体験に基づいたものなのである。そこに説得力がある。

 そして本人も認めているように、金間氏はここで若者たちのことをコミカルに(多少シニカルに)描写している。逆にいえば、そうでもしなければ受け入れ難いほどに彼らは難解だとも考えられるのだけれど。

 いずれにしても、コミカルに(多少シニカルに)描写できるということは、すなわちツッコミどころが多いということでもある。事実、本書に出てくるエピソードの数々は、私たち大人を戸惑わせる。「はたして大人とはなんなのか、本当に私たち大人は正しいのか」などなど、考えるほどに答えは遠ざかっていく。

1限だから1限に出る

 学生時代、1限が嫌いだったという方も少なからずいらっしゃることだろう。早起きしなければならないし、そのため前の晩にも夜更かしもできず、単純化して捉えれば1限を受講することはつらい部類に入っていたからだ。

 ところが金間氏によれば、最近の大学生にそんな考え方は当てはまらないようだ。少なくとも最近は、朝一だからといって出席率が下がることはあまりなく、学生に理由を聞いても「そのほうが、1日が長く有効に使えていい」といったお手本のような回答が返ってくることもあるというのである。

 もちろん、それはそれで悪いことではない。だが問題は、彼らが朝一から大学に来るのは、意欲があるからでも、意識が高いからでもないということだ。

 だとすれば、なぜ1限の講義に出てくるのか? その疑問に対する答えはなかなか衝撃的だ。なにしろ、「1限に設定されたから」だというのだから。わかりやすく言えば、設定されたその1限に自分だけが出ないことを考えると、「なんとなく不安になる」ということだ。

<休んだら、講師からのみならず、友だちの間でも目立つかもしれない。休んだことが話題になるかもしれない。自分がいない間に何か自分の話をしているかもしれない。それが落ち着かない。だからちゃんと朝起きて、1限に出て、その他大勢の一員となることで安心する。

板書(最近はスライド)はちゃんとノートに写す。ここは大事だと言われれば下線を引く。座席指定されたら従う。

でも、わからないことがあっても質問はしない。講師が間違ったことを言っても指摘しない。(30ページより)>

これがいまの大学生の、講義での一般的な反応なのだそうだ。つまりは活気がなく、リアクションが薄い。学生に向けて講演を行った結果、反応がなさすぎて心が折れそうになった経験は私にもあるので、講師にとってそれがいかに恐ろしいことであるかはわかる。ましてや、それが日常的な光景なのだと考えると耐えられる自信はまったくない。

 だとすれば、もう「活気のある講義」をすることなどできないのだろうか? 少なくとも、講師の質問に対してあちこちから手が挙がるような“白熱教室”になることを期待するのは難しいような気もする。

 しかしそれでも、簡単に白熱教室を実現できる方法がひとつだけあるのだという。「匿名化」がそれで、多くの人が想像する以上に効果があるようなのだ。

<そのレシピはこんな感じ。

最近では、質問やコメントを簡単に送ることができるアプリがたくさんある。それを活用し、講義中に投げかけた質問にスマホで答えてもらう。適当なハンドルネームで登録していいことにすれば、匿名性は保たれる。アプリの画面を講義室のスクリーンに映し出せば、自分以外の聴講者がどんな質問をしているのかを見ることもできる。(31ページより)>

ポイントが「匿名性は保たれる」という部分にあることは想像に難くない。つまり彼らは反応したくないのではなく、目立ちたくないだけなのだ。だから、自分が自分であることを隠せれば問題はないのだ。事実、こうすると、質問やコメントがたくさん届くのだという。

「ほめ」は「圧」

 金間氏は学生をほめるほうであり、モチベーションの研究者としてその効果も理解しているそうだ。単純に考えてそれは「いいこと」だと思うのだが、10年ほど前、そのことに関連して学生に怒られたことがあるらしい。

 講義のあと、「先生、どうか皆の前でほめないでください」と言われたというのである。つまり本書のタイトルは、それを引用したものなのだ。タイトルに引用しているということは、直視すべき問題だということでもあるだろう。たしかに、こんなことを言われたら誰だって面食らう。ところがほかにも、大勢の前でほめたあと、急に発言量が減った学生もいたのだという。

 どうやらここに重要なポイントがありそうだが、当然ながら金間氏もこのことについて検討を重ねたようだ。その結果、わかってきたのは2つの心理状態が関係していること。

 まず1つ目は、自分に自信がないこととのギャップだ。

<現在の大学生の多くは、自己肯定感が低く、いわゆる能力の面において基本的に自分はダメだと思っている。その心理状態のまま人前でほめられることは、ダメな自分に対する大きなプレッシャーにつながる。つまり、ほめられることはそのまま自分への「圧」となるのだ。(33ページより)>

 従来の尺度で考えれば、ほめられることはうれしいことであるはずだ。事実、少し前には「ほめられて伸びるタイプ」というフレーズがよく使われていた時期もあった。だが、いまやそうではなく、「ほめ」=「圧」という図式はいい子症候群の大きな特徴なのだという。

 そして2つ目は、ほめられた直後に、それを聞いた他人のなかの自分像が変化したり、自分という存在の印象が強くなったりするのを“ものすごく怖がる”こと。

<ほめられてうれしいと感じる気持ちはもちろんあるが、そんなものはミジンコ級に感じるほど、目立つことに対する抵抗感は絶大だ。

それでもなお、人前でほめられ続けるとどんな気持ちになるかと複数の学生に尋ねたところ、「ひたすら帰りたくなる」そうだ。(34ページより)>

ただし、彼らにも承認欲求はちゃんとある。どういうことかといえば、人前ではないところでほめられることは、原則として好意的に受け止めるというのである。考えようによってそれは、ほめてくれる相手に対して「ほめるべき環境であるかどうかを判断してからほめろ」と要求しているようなもの。なかなか難しいところである。

仕事に普通なんてない

 そんな彼らだから、就職活動においても「いい子症候群」を発揮する。求めているのは「安定」、そして「普通」であることだ。ちなみに「安定」に関しては、メンタル的な意味でのそれも多分に含まれているという。

<周りがガシガシしてない感じ。上司とか先輩がガンガン来ない感じ。ルーチンな感じ。お前は何がしたいんだ、とか、まだ若いんだから、とか言われない感じ。

つまり、安定したメンタルで働ける、というニュアンスを含めての「安定」人気なのである。(131ページより)>

 そして「普通」に関してはこうだ。

<「やっぱり大企業の事務職がいいかな。営業は向いてない。少人数の人と話すことは嫌いじゃないけど、誰かに何かを提案するとか絶対無理。いつか地元に戻りたいとも思うから、それならやっぱり公務員にしようかな。親も何となくそうしてほしいみたいだし」(230〜231ページより)>

自分は特別なことを望んではおらず、毎日、平穏に過ごせればいいというような状態を、彼らは「普通」と呼ぶのだ。が、金間氏はここに食いついている。大多数の大人たちに代わって本音をぶつけているといってもいい。

あなたの言う「平穏」や「普通」は最上級の待遇

<冗談じゃない。

いい加減に夢から覚めなさい。

あなたの言う「平穏」や「普通」とは、今の日本で得られる最上級の待遇にある。

もしあなたの周りにそんな待遇を得ている(ように見える)人生の先輩がいたとしたら、それは宝くじ当選級の運の良さを持った人か、あるいはものすごい努力と苦労を重ねてきたかのどちらかだ。

むろん、おそらくその人は「宝くじ」には当たっていない。

そして、あなたもまた「宝くじ」には当たらない。

もう一度言うが、いい加減に夢から覚めなさい。

(231ページより)>

おっしゃるとおりで、仕事の現場に「普通」はありえない。次から次へと問題が起こり、現場にいる人の神経をすり減らす。それが現実だ。しかし、無駄なようにも感じられるそうしたトラブルを越えていくことで、学生がビジネスパーソンへと成長していくのも事実。

 にもかかわらず、こういう話を聞いた若者の何割かは「引くわー」と感じるのだろうか? だが、これは決してよくある説教のたぐいではなく、もっと切実な問題だ。だからこそ若者諸君は、金間氏のメッセージを真摯に受け止めてほしいのだ。

 そして、彼らと対峙しなければならない上司や先輩の方々には、金間氏のメッセージに共感してほしいものである。いや、本書に目を通してみれば、きっと共感したくなると思う。

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