日本銀行の統計によれば、2014年度の不動産業向けの設備資金の 新規貸し出しは、銀行が10兆1549億円、信用金庫は2兆1002億円を記録した。銀行が10兆円を超えたのは7年ぶりで、バブル景気真っ只中の 1989年度や「ミニバブル期」といわれた07年度と同水準だ。
また、信金が2兆円を突破したのは初の出来事であり、金融機関の不動産業向け融資が高水準で推移している。金融庁は、融資の焦げ付きなどで金融機関の経営に悪影響がないか監視を強めているというが、不動産市場の実態はどうなのだろうか。
榊マンション市場研究所主宰で住宅ジャーナリストの榊淳司氏は、以下のように語る。
「14年10月末に行われた日銀の異次元金融緩和第2弾、いわゆる『黒田バズーカ2』以来、銀行の貸し出し額は急速に膨張したはずで、今はさらに危険な水準にまで膨らんでいると推測される。
これらの資金需要を根底で支えているのは、富裕層による相続税対策などの不動産投資である。さらに、香港や中国・上海、台湾・台北など東アジアの諸都市に 比べ、ドル換算で割安感のある東京の不動産を購入しようとする動きがある。主に中国系の外国人需要だが、それらの要因が重なったことで都心の不動産価格が 高騰した。
その結果、都心エリアと周辺部、さらに神奈川県の川崎市・武蔵小杉や横浜市・みなとみらい地区などでは、新築・中古マンションの価格がバブル的に急騰した。『買うから騰がる』『騰がりそうだから買う』という状態だったわけだ。
逆に、相続税対策や外国人投資がほとんど見られない郊外の新築マンションは、さほど値上がりしていないのに販売が不調だ。この『地域限定バブル』ともいう べき状況を支えたのが、金融機関による積極的な不動産担保融資である。不動産業界の関係者は、口をそろえて『融資審査が甘くなった』と言っている」
税制改正によって、今年1月から相続税が増税されるかたちになったが、銀行からの借入金で不動産を購入すれば、相続税を抑えられるケースもある。そのた め、榊氏が指摘したような相続税対策の不動産購入ニーズがあったというわけだ。しかし、同氏は「状況は変わりつつある」とくぎを刺す。
●危険な兆候ばかりの不動産市場
「11 月に、国税庁がタワーマンションを使った相続税対策の監視を強化するという方針が伝えられた。それによって、『1億円で購入したタワーマンションの相続税 評価額が2000万円』といった不自然な仕組みが徐々に正常化されるだろう。従って、今後は相続税対策の不動産需要は減少していくと思われる。
また、中国では経済減速が鮮明になりつつあり、不動産に対する“爆買い”の勢いにも陰りがみられる。また、日本全国で賃貸用住宅の空室率は高水準で推移し ており、外国人投資家が日本で不動産を運用することのリスクに気付く日も近い。さらに、都心では中古マンションの在庫が急激に増加している。これらの危険 な兆候を鑑みると、不動産バブル崩壊の足音は、すぐそこまで聞こえてきているといっていいだろう」(榊氏)
巷間伝えられる「20年の東京オリンピックまでは、不動産価格は上がり続ける」という予測は、意外と早く崩れ去るのかもしれない。
(文=編集部)