今春発売「24時間」で建つ「500万円」の一戸建て 意外にも「60歳以上」から問い合わせが殺到する理由

「24時間」「500万円」で建つ“夢の家”が話題になっている。“安くて早い”驚きの秘訣は3Dプリンターを使った工法によるが、販売を前にすでに問い合わせが殺到。気になる安全性や購入希望者の意外な実像などについて、開発会社の“トップ”を直撃した。

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【写真】話題沸騰の「フジツボモデル」完成イメージ図と間取り図、先行モデルの希少な施工中ショット

 この春に500万円での販売が予定されているのが、3Dプリンターを使った一般向け住宅「フジツボモデル」である。同住宅を慶應義塾大学と共同で開発したのが、2018年8月設立のスタートアップ企業「セレンディクス」だ。

 フジツボモデルは49平方メートル、1LDKの平屋建てで、高さ約4メートルの鉄筋コンクリート(RC)造。水回りも完備され、耐火・耐水・断熱性も基準をクリアした仕様になっているという。

未来の住宅の形になるか?(セレンディクス提供)

 同社創業者の一人でCOO(最高執行責任者)の飯田国大氏が話す。

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「最初は限定5~6棟からの販売でスタートする予定ですが、順次、販売戸数は増やしていく計画です。500万円で家が建てられる理由の一つはコンクリート製であること。現在、一般のコンクリート価格はおよそ1トン=1万5000円ほどで“ミネラルウォーターより安い”とも評される。コンクリートを使うことで製造原価を(一般的な住宅の)10分の1以下にまで抑えることが可能となっています」

 コンクリート壁の厚みは30センチ以上あり、日本有数の構造設計事務所に構造計算を依頼することで耐震基準も満たしているという。

23時間12分で完成

 同社は昨年、床面積約10平方メートルの3Dプリンターハウス「Sphere(スフィア)」を完成させ、販売した6棟はすでに完売。3Dプリンターで設計通りに4つの住宅パーツを出力(プリント)し、球状の住宅に組み立て、完成までに要したのはわずか23時間12分。重量は約20トンで、住宅の荷重のみで安定する構造となっている。

 スフィアは別荘や災害復興住宅向けなどに開発されたが、販売後、「一般住宅仕様の3Dプリンターハウス」の販売を望む声が多く寄せられたことから、今回のプロジェクトは始動したという。

「3Dプリンター住宅を分かりやすく言えば、“ロボットがつくり、人間が組み立てる”といったイメージになります。フジツボハウスも屋根まで一体成形するので、24時間以内に完成する。当社では100平方メートルサイズの建物まで出力可能な国内最大の3Dプリンターを3台所有しており、近い将来、“100平方メートルの3Dプリンターハウスを300万円”で販売する計画も立てています」(飯田氏)

 セレンディクスが従来の住宅メーカーと違うのは、自社で設計・施工は行わず、組み立てや塗装などの作業もすべて外部の協力企業が担っている点にある。

「住宅ローン」からの解放

 フジツボモデルへの問い合わせはすでに2000件を超え、なかでも「60歳以上」の人たちからの関心が非常に高いという。実際、同社には「60歳になったら家を貸してもらえなくなった」や「すでに住宅ローンは払い終えたが、リフォームの必要性に迫られたところ“1000万、2000万円の単位で費用がかかる”と言われた」などの声が多く寄せられているとも。

 そのためフジツボモデルは高齢夫婦(2人世帯)が快適に暮らせることをコンセプトに開発されたという。

「現在、返済期間30年の住宅ローンを組んだ人の完済時平均年齢は73歳。ローンを組める人はまだよく、日本人の約4割は住宅を生涯持てず、その割合は過去10年で約10%上昇しています。私たちの最終目標はすべての人を住宅ローンの重圧やくびきから解放し、生活をより豊かにすることです。ローンや家賃がなくなれば、仕事も人生の選択肢ももっと増える。日本人の生き方の自由を阻害している最大の要因の一つが住宅問題だと捉えています」(飯田氏)

 もちろん土地は自分で用意しなければならず、土地代が高ければ「3Dハウス」の利点も薄れる。どうすればいいのか。

目安は「政令指定都市から90分」

「“都心でフジツボモデルを建てたい”といった相談も寄せられていますが、私たちは“それはやめましょう”と答えています。たとえば都内中央区で100平方メートルの土地となると5億円を超えますが、私の住む大分県日田市周辺だと100万円を切るエリアも少なくない。私たちが提唱しているのは政令指定都市から車で90分といった距離を目安に土地を探し、ゆっくり生活するスタイルです」(飯田氏)

 経済アナリストの森永卓郎氏もこう言う。

「田舎に行けば、49平方メートルの家に見合う土地なら1000万円以下で見つけることは難しくありません。ただし、あまりに僻地だと生活の不便さが増し、暮らしそのものが困難になる。すこし足を伸ばせばスーパーや病院などの生活インフラにリーチできる“適度な田舎”に建てるのがベストではないでしょうか。高齢者が老後を見据えて購入することの利点は大きいと思いますが、現役世代が趣味の部屋やセカンドハウスとして利用するのにも適していると思います」

 日本人を「家の呪縛」から解放する“救世主”となるか。

デイリー新潮編集部

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