仏で「つながらない権利法」施行、働き方は変わるか

【1月10日 AFP】フランスの首都パリ(Paris)の航空会社でマネジャーを務め、日々忙しく立ち働くベアトリスさん(50)は、全被雇用者に対し、勤務時間外の業務連絡の電話や電子メールからの解放を保障する新法「つながらない権利法」から得るものがあるはずと期待を寄せている。

 本名と社名を伏せることを条件にAFPの取材に応じたベアトリスさんは、「自由時間に緊急の問題が飛び込んできたり、就業時間外に電子メールに返信しなければならなかったりすることはよくあります」と認めた。

「誰かに強制されているわけではありませんが、仕事のメールも自分の携帯電話で受信しています。他のマネジャーらも同じ」と続けた。

 同国では今月1日から、従業員が50人を超える会社に対し、社員らに認められるべき勤務時間外の完全ログオフ権を定義する定款の策定が義務付けられた。違反した場合も罰則が設けられる見通しはないが、従業員は権利侵害を理由に訴訟を起こすことができる。

 ベアトリスさんの会社は、従業員に健康問題が生じる危険性は広く認識している一方で、コスト削減に必死だと、ベアトリスさんは言う。結果経営側は、より少ない人員で同じ成果を求めるようになってきている。

■仕事中毒

 一方で、夕食時や就寝前にメールチェックをするのは、単に要求が多過ぎる上司のせいばかりではないという見方もあり、就業時間外の働き方を規制することの難しさを物語っている。

 業務時間外でもメールをチェックする理由について、職業倫理や野心に駆られてと告白する人もいれば、未読メールを放置しておく意志の強さがないからだと認める人もいる。

 パリ中心部オペラ(Opera)地区の文化関連機関に務めるマチルドさん(26)は、メールを必要以上にチェックしてしまうのは、外圧のせいというよりも、単に気になって仕方ないからだと言う。「相手が(返信を)待っていたら、落ち着かない気持ちになります」

 企業の合併・買収を担当する、ある仕事熱心な男性銀行員(24)は、会社側が過労防止策として毎晩10時から翌朝6時まで業務関連メールへのアクセスを遮断していると明かした。スーツ姿の同男性は、「携帯をチェックするもしないも個人の自由。切断しろと命令されるのは腹が立つ」と言うと、足早に歩き去った。

■必要なのは全社的取り組み

 英ロンドン大学シティー校(City, University of London)で労働環境を専門とするピーター・フレミング(Peter Fleming)教授は、多くの被雇用者が、勤務先企業の「勤労主義」に苦しむ一方で、「自身の労働者としてのアイデンティティーへの過度の執着」という問題もあると指摘している。

 フレミング教授はAFPに対し、「多くの人にとって、仕事というものが、自分がすることから、自分そのものに変わってきている」「四六時中の電子メールが、その傾向にますます拍車を掛けている」と述べた。

 そのように考えれば、フランスのように法律で規制するのか、企業が自発的に推進していくのかという違いは別にしても、勤務時間外のアクセス遮断に向けた会社全体での取り組みは歓迎すべきものであり、時には必須でもある。

 フレミング氏は、ロンドン大のMBA(経営学修士)コースで学ぶ意欲的な学生たちは、自分に対する評価が下がることを恐れて勤務時間外のメール遮断には本能的に反発するだろうとみている。

 このため、アクセス遮断の取り組みは「個人ではなく全体で行わなければならない。同僚が皆ログオフしていると分かっていれば、自分もログオフするかもしれない」と、フレミング氏は提言している。

 過労や燃え尽き症候群のリスクが高いのは、特に金融、IT、法曹、医療といった業界とされるが、最近では大企業の中にも、こうしたリスクを認識する会社が増えつつある。【翻訳編集】 AFPBB News

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