「学歴・頭のIQ」で、「仕事能力」は判断できない。仕事ができるかどうかは、「仕事のIQ」にかかっている。
『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』と『一流の育て方』(ミセス・パンプキンとの共著)が合わせて21万部突破の大ベストセラーになった「グローバルエリート」ことムーギー・キム氏。
彼が2年半の歳月をかけて「仕事のIQの高め方」について完全に書き下ろした最新刊『最強の働き方――世界中の上司に怒られ、凄すぎる部下・同僚に学んだ77の教訓』が、発売と同時に5万部を超えるベストセラーになっている。
本記事では、ムーギー氏が「世界中の上司に怒られ、凄すぎる部下・同僚に学んだ教訓」の数々を、『最強の働き方』を再編集して紹介する。
「カバンの中」を見て、人を採用せよ!?
「あなたのカバンの中、きれいですか? 財布の中は、きれいに整理されていますか? パソコンのデスクトップ画面は、フォルダもへったくれもなく、カオス状態じゃないですか?」
これは、じつは私が面接で候補者によく聞く質問である。
世界中の職場で働いてきて痛感するのは、整理力は一事が万事で、「仕事のIQ」の高さ、低さが整理力に如実にあらわれるということだ。
机の上が汚い人は、たいてい机の引き出しやカバンの中も汚く、パソコンのデスクトップ画面やフォルダの中も汚い。
そういう人に限って資料や領収書はなくすし、ファイルはよく行方不明になるし、資料の細かな数字が間違っているものである。
一方、机の上がきれいな人は、机の引き出しもカバンの中も、デスクトップ画面もフォルダの中もたいていきれいに整理されている。
そういう人は頭の中でも考え方やデータがきちんと整理されているので、いつでも必要な情報を引き出すことができるのだ。
整理整頓能力は、『最強の働き方』で論じている「仕事のIQ」の中でも最も重要な「頭の良さ、学歴の高さとは関係ない、本質的な仕事能力」のひとつである。
では、いったい整理力のどこに「一流と二流の差」が出るのか? なぜ整理整頓を見れば、二流で終わる人の「仕事力全般にまつまる本質的な欠陥」までバレてしまうのか?
「整理力を高める秘訣」「整理力がない人への対処法」とあわせて紹介しよう。
机とカバン、散らかっていませんか?
整理整頓の不備に「二流の二流たる所以」が出てしまう。まず真っ先にバレてしまうのが、「生産性の低さ」だ。
探し物で貴重な時間、ムダにしてませんか?
①整理整頓ができない人は「仕事全般の生産性」が低い
私のかつての上司はコンサル時代も投資ファンド時代も一流の人だったが、超優秀な人に限って、何を質問してもパッと本棚から資料を取り出し、その資料の適切なページを開いて説明してくれた。
それが20年前の案件であろうと、「あっ、それはここに載っていてね……」などと驚くほど瞬時に引っ張ってきたものである。
整理整頓ができているということは、紙やファイルが「物理的に」整理されているのみならず、「頭の中」の情報や知識も整理されていることにほかならない。
頭の中が整理されているので、何をやるにしても仕事が速い。その結果、後述するように、「資料やファイルを探す余計な手間」に時間をとられないので、おのずと仕事の生産性も高くなる。
ためしに同僚や部下に昔、使ったファイルを探してもらうように頼んでみよう。
ピアノの鍵盤を叩くような速度でテキパキとフォルダの階層構造をたどり、どこにあるのか迷うことなくサッと整理されたフォルダからすぐファイルを出してくれる人は、一事が万事で仕事が速く、正確なはずである。
これに対し、整理整頓ができていない人は2時間くらい右往左往した挙句、結局、何も見つけていないのに疲れてしまう。
さらにそういう二流の人に限って、探し物をしただけなのに(おまけに、見つからなかったのに)「仕事をした気分」になって、さっさと家路についてしまうのだから、始末に負えない。
②整理整頓できない人は「職場全体の戦略的時間比率」を下げる
整理整頓ができない人の本質的問題点その2は、その人がチーム全体の生産性を犠牲にしてしまうということだ。整理力の有無は、「自分」のみならず「職場全体の生産性」を左右するのである。
整理整頓がきちんとできていると、あなたにかかわるすべての人が「資料やファイルがどこにあるかを探す」という非生産的な時間を使わなくて済む。それによって、チーム全体でエネルギーを節約でき、生産性が格段に向上する。
きちんと整理することは、他人の勤務時間中の「戦略的時間比率」(重要な真の仕事に使われる勤務時間の比率)を高め、自分、他人、会社すべての生産性を高めるものである。
「自分のための整理」ではなく、「チームのための整理」という視点をもつことがくれぐれも重要だと肝に銘じなければならない。
「自分しかわからない整理」を悪用する?
③整理整頓できない人は「仕事の引き継ぎ」で大混乱をもたらす
また、整理整頓ができていないと、仕事の引継ぎ時も大混乱に陥る。
資料やファイルがきちんと整理されていれば他人に引き継ぐのも容易だし、何か質問をされればすぐに対処できる。
しかし、机が「資料の山」や「ゴミ屋敷状態」だと、何が必要で、何が必要でないか、それを仕分けることにさえムダな時間がかかるのだ。
「自分にしかわからない整理整頓」だと、いざ、誰かが仕事を引き続こうと思っても、必要な資料や情報をうまく引き継ぐことができないのである。
ただし、「飛び抜けて二流の人」は、生産性が低すぎたため、引き継ぐべき仕事がないこともある。日ごろから何も仕事をしていなかった人は、引き継ぎ時と退職時に、その人がどの程度の仕事をしてきたかがバレることも忘れてはいけない。
わざと「カオス状態」にする二流エリート
恐ろしいことに、競争が激しいグローバル業界では、情報を自分だけがわかるブラックボックスの中に放り込んで、「自分にしかわからない整理整頓」を「自分の保身術」に悪用する人もいる。私が目撃したあまりにも二流な実例を、「反面教師」として紹介したい。
ドイツ系オーストラリア人の2メートルくらい身長のある優秀な投資銀行家である友人のフィリップス(仮名、30歳)も、まさにそのタイプだった。
彼はMBA時代も成績優秀で上位10%以内に入っていたし、前職の欧州系投資銀行でも20代でさっさとディレクター(部長クラス)に出世するほど仕事ができたが、その机の汚さといったら目も当てられないほどだった。
しかし、彼がいなくなると、そのカオスの状態から情報を取り出してくることが不可能になる。それにより、逆説的だが「自分の重要性」を高め、会社の中での「不可欠度」を増していたのだ。
ほかにも、某外資系コングロマリットで働いている友人の藤田さん(仮名、49歳)は、自分がクビになったら仕事が回らなくなるよう、資料やデータを極力わかりにくいフォルダ名で分類していた。重要な顧客情報を意味不明のフォルダ名で、わけのわからない場所に保存しては、ほくそ笑んでいたのだ。
データを探そうにも、それを保存した自分に聞かなければ一生たどり着けなくすることで自分の「戦略的地位」を保つのはまさに二流の所業だが、それでも藤田さんは15年間一度も仕事を失うことなく生存競争を勝ち抜いていたのである。
ただし、こうした「裏ワザ」を普通の人がマネるべきではない。あくまで我々が目指すのは、整理力に象徴される「仕事のIQ」全般を高めることであり、整理整頓ができない二流の人に対して「上手に対処」することである。
「高める秘訣」と「上手な対処法」は?
整理力を高める秘訣と、整理力が低い人への対処法を、1つずつポイントを絞って紹介しよう。
「歩く整理ダンス」を目指せ!
①机とカバンから始めて、「歩く整理ダンス」を目指せ
整理力を高めようと思えば、まず始めるのは、机とカバンの中の2つだ。この2つが散らかっている人は、往々にして資料もパソコン内のデータも、きちんと整理されていないものである。
整理整頓は仕事能力のひとつであると同時に、習慣でもある。一度「整理しない生き方」が身についてしまうと、それを変えるのは至難の業だ。
できるだけ若いうちに整理整頓の能力を磨くことで、あなたの「仕事のIQ」は格段に高くなる。
まずは机とカバンの中から整理を始め、自分を「歩く整理ダンス」だと思って、森羅万象を片っ端から片付け、自分と組織の生産性を高めていこうではないか。
そうすれば、整理力が向上するのみならず、仕事のスピードや質、自分やチーム全体の生産性もおのずと向上するはずである。
整理していないものは持っていないものと同じであり、すぐに整理しないものは二度と取り出されない運命にあるのだ。
②チームに「机やカバンが汚い人」を入れない
もし自分が上司やリーダーとして「人を選ぶ」立場にある場合は、「整理整頓ができない人は、なるべく自分のチームに入れない」というのも大事なポイントだ。
本記事で述べたように、「整理能力」が低い人は、往々にして、仕事は遅いし、生産性も低い。おまけに、自分のみならずチーム全体の仕事のスピードや質を下げる。そもそも、「職場のデスクが散らかっていて平気」という神経の持ち主は、「まわりのため」「チームのため」という視点が欠如している、他人に敬意をもたれない自分勝手な人が多いのだ。
もし、整理整頓ができない人がチーム内にいれば、そういう人にはできるだけ「ひとりで完結する仕事」を割り振るようにし、「チームワークを必要とする仕事は極力任せない」ことである。
私が本記事で書いたよう、「人を雇うときに、その人の整理能力を精査する」ことで、その人の「仕事のIQ」全体を見ることができる。そしてこの「整理能力のなさ」は、三つ子の魂100までよろしく、よほど努力しないかぎり永遠に改善されないのだ。
この意味で、チームのメンバーを選ぶときは、「机の上とカバンの中が汚い人を避ける」ようにするだけで、職場から「永遠に二流の人」を排することができるのである。