“仕事のデキない人”はデスクを見れば一発で分かる…トヨタ流「仕事がサクサク進む」整理・整頓の極意

仕事ができる人はどんな工夫をしているのか。トヨタグループで働いてきた中小企業診断士の森琢也さんは「仕事が速い人は整理・整頓する能力が高い。トヨタグループでは『整理ができない人=仕事ができない人』だと評価されていたため、独自の整理・整頓術が共有されていた」という――。(第1回)

※本稿は、森琢也『トヨタで学んだハイブリット仕事術』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

■1日平均20分を無駄にしている

ある文具メーカーの調査によると、日本のビジネスパーソンは紙書類を探す行為に、平均で週に約1.7時間を費やしているそうです。オフィスの机の上が散らかっていて、いざ必要な書類を探そうとしてもすぐに見つからない。さらに紙書類だけでなく、パソコンのデータも散乱していて、すぐに欲しいデータが取り出せない……。

1週間で1.7時間ということは、1日に平均すると約20分、紙書類を探すために使っている計算になります(週5日勤務で計算)。さらに、パソコン上のデータ探しも加えると、多くの方が毎日30分以上、探しものに時間を費やしているのではないでしょうか。ということは、探しものをしないで済むようになれば、「毎日30分以上、早く仕事が終わる」ことになります。これは年間でいうと80時間も探しものに費やしているということになります。

どうすれば、この「探しもの」に費やす時間や労力のムダをなくすことができるのでしょうか。方法は簡単で「整理・整頓」して、不要なものを捨てるのです。ただし、このやり方にもトヨタ流があります。

STEP1 トヨタ流「整理・整頓」

一般的に私たちが日常で使う、自宅の掃除や片付けを行う際の「整理・整頓」と、トヨタで使われている「整理・整頓」は異なっていて、入社当時私も大きく戸惑った経験があります。そもそもみなさんが自宅の掃除や片付けを行う目的はなんでしょう?

清潔感や衛生を保持したい、足の踏み場や寝るスペースを確保したい、友達が遊びに来るから見た目を整えたい、などではないでしょうか。一方で、トヨタの「整理・整頓」の目的にはお金(時間や労力)の節約が加わります。従業員がものを探す時間も労務費というコストが発生していますし、ものが見つからずに買い足す場合も、つくり直す場合もコストが発生するからです。

■トヨタでは“整列”と“整理”を区別している

トヨタグループでは、「整理ができない人」は「仕事ができない人」と同義語で使われることがあります。「整理ができない人」=「判断ができない人」=「仕事ができない人」と評価されてしまうのです。このような発想のもとになっているのが、「整理」についての考え方です。

整理された近代的なオフィスのデスク

写真=iStock.com/HAKINMHAN

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/HAKINMHAN

みなさんは乱雑に散らかった机のまわりを「整理しなさい」と言われたら、どのように対応しますか? 多くの方が、ひとまず、寄せて、まとめて、並べて、重ねて……と対応するはずです。しかし、トヨタでは異なります。トヨタでは、机の上などに散らかっているものを綺麗に整える行為が“整列”、それに対して「ものごとの要否を判断して、不要なものを捨てる」行為が“整理”である、と明確に区別しています。

そして、もちろん整列と整理では、整理を重視します。ものがなければ、散らかることもないし、「探しもの」に費やす時間もなくなるからです。もちろん整列も大切ですが、不要なものを見栄えよく並べてもあまり意味はありません。できる限りものを捨てていくという発想は、トヨタにおける“カイゼン”でよく使われている「ECRS(Eliminate, Combine, Rearrange, Simplify)の4原則」のうちの「Eliminate=なくす」と同じ考え方です。

■「捨てる=大きな決断」と思ってはいけない

STEP2 「捨てられない‼️」を乗り越える

世の中には「物を捨てるのが苦手なんだよね~」という方がいます。「捨てる」という判断にはリスクもともなうため、ついつい判断を避けてしまいたくなるのだと思います。この「捨てられない‼️」をどうやって乗り越えればいいのでしょう。

トヨタでは、次のような取り組みを実践しています。

①捨てる基準(判断基準)を定めて、一大決心を避ける

誰しも、一大決心や大きな決断は、心理的な負荷が大きいものです。一品一品、要否を検討し、いちいち「捨てるぞ!」と決心や決断を繰り返していては、誰だってすぐ心理的に疲労してしまいます。そのため、捨てるという決断の心理的な負担を極力少なくすることが1つのポイントになります。

できれば機械的な判断で捨てるか残すかを決めていけるような仕組みをつくることがおすすめです。具体的には、「再購入やつくり直した場合に○○円以下で済むなら捨てる」「最終版のデータ以外は捨てる」というようにあらかじめ判断基準を定めておき、その判断基準でふるいにかけて、捨てるか残すか振り分けていくようにするのです。

機械的に捨てるか残すかを振り分けることができると、決心や決断が一切不要となり、作業はとてもラクになり、継続性も向上します。

■捨てることは判断力を鍛えることにつながる

②第三の選択肢〈有期保留〉を駆使する

ただし、捨てる基準を定めてもその判断基準が適用できないものや、この判断基準で捨ててよいだろうかと不安に思うこともあると思います。要否の判断に迷って答えが出ないときは、第三の選択肢として「有期保留」を駆使することをおススメします。

有期保留とは、2週間や1カ月というように期間を決めて保留し、その期間が終わったときに一度も利用しなかったら「捨てる」という判断をすることです。有期保留を駆使し、既定の期間が過ぎたら、結局必要だったのかどうか振り返りを行いましょう。

【捨てる基準】
●「再購入やつくり直した場合に500円以下で済むかどうか」
●「データ容量が5GB以上かどうか」
●「最終版が別にあるかどうか」
●「“念のため”と思って用意したものかどうか」
●「電子化できるかどうか」
●「ないと顧客や取引先に迷惑をかけるかどうか」

振り返りを行うことで、「このジャンルのものは、有期保留しても結局捨てる」「この手のものは、1カ月様子を見たほうがいい」といった具合に、みなさんの判断基準が磨かれていきます。有期保留は、ただの判断先延ばしではなく、判断基準を磨き上げる大切なプロセスなのです。

整理とは、とにかくいらないものをどんどん捨てていくこと。「捨てる」という作業を通じて、じつは「判断力」という能力の向上も図れます。「何かを探す」というムダな時間や労力を大幅に削りながら、「判断力」を磨き、スッキリ整った仕事環境を手に入れるという、一石三鳥を狙ってみませんか?

【まとめ】
「捨てる」作業を通じて「判断力」を磨く

■綺麗に収納すればいいわけではない

前項では「何かを探す」というムダな労力や時間を削るための「整理と整頓」のうち、整理にフォーカスしたカイゼンについて説明しました。ここでは「整頓」について一緒に考えていきましょう。

「整頓」と聞くと、本棚にカチッと書籍が並んでいるような、スッキリ収納されている様子をイメージされる方も多いと思います。ところがトヨタでは違います。トヨタでは整頓=セッティング、というイメージが近いと感じます。

ポイントは、まず、「必要なものは10秒で取り出せるように」という意識を持つことです。わずか10秒ですから、「目をつぶっていても取り出せる」レベルです。自分の仕事にとって本当に必要なものは、目をつぶっていても手を伸ばせば素早く取り出せるというくらいに収納場所にこだわり、すぐに使える状態にセッティングしておくことが大切です。

トヨタでは「ただ綺麗に収納するな」と教えられます。例えば、一見整然と、キチッと書籍が詰まっている書棚ほど、本をうまく取り出せないことがあります。これでは見た目はよくても実用的ではありません。資料や重要なデータは、パッと取り出せて活用できることに意味があります。もし必要なものを探したり取り出したりするのに3~5分以上かかるようなら、「セッティングの仕方そのもの」を見直しましょう。

整理されたオフィスの棚とデスク

写真=iStock.com/Charday Penn

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Charday Penn

■定位置を定めるだけでなく、目印をつくる

それでは取り出しやすいセッティングにするためのコツをご紹介します。

①ホームポジション(定位置)を示す

新人でも何がどこに何個あるのかがわかるようにするには、ホームポジションを示すことが効果的です。これは、この工具の置き場所はここ、このデータの保管場所はここというようにルールを決めるだけでは不十分です。

例えば、工具や文房具の置き場所なら、白線でその工具の形状と置く向きまでがわかるようにシルエットを描いて示し、工具をその形の通りに置くようにします。こうすれば、新人でもどのような形の工具を何個、どの位置にどの向きで置けばいいのかが一目瞭然です。この「姿置き」は実際にトヨタグループの製造ラインで実践されているカイゼン策です。

②エクスプレス・ラックをつくる

エクスプレス・ラックとは、素早く取り出せる収納箱のイメージです。私のコンサル先のあるメーカーでは、製造現場の方は全員もれなく、寸法をはかるためのメジャーを腰にぶら下げていました。みなさん、メジャーを頻繁に使うからだそうです。私自身は、パソコンのショートカット機能やワードやエクセルのクイックアクセスツールバーを用いて、よく使うファイルや機能はすぐにアクセスできるようにしています。

特に、一時的に利用頻度が高まる道具やデータは、期間限定でも特別な位置に配置するといいでしょう。

■ファイル名は「日付・件名・バージョン」で管理する

③グルーピングする

トヨタでは「綺麗に収納するな」と言われると紹介しましたが、時には、大きさや形状がバラバラになってもかまわないので、「よく一緒に使うもの同士をひとまとめにして、すぐに使える状態」にします。

例えば、「蛍光ペンとハサミと定規」といったセットを一つの箱の中に入れておくのもよい方法です。見た目は綺麗でなくても、よく同時に使う3つを一度に取り出せるので、一つひとつ取り出して使い終わったらしまうといった作業のムダも削減できます。取り出しやすい収納とは、ただ取り出しやすいだけではなく、いかにムダ(繰り返し作業)をなくすかという視点で考えることも大切です。

④検索フックを仕込む

データを扱うときには、ファイル名や階層など保存に関するルールを決めるだけではなく、「すぐに探せる・取り出せる」ようにしておくことが大切です。パソコンのデスクトップが散らかっている、フォルダやファイル名の名づけルールがない、という個人や組織をいまだに多く見かけます。これでは、いざというときに必要なデータを素早く探して取り出すことができません。

パソコンにデータを保存するときには、フォルダやファイル名のつけ方を「日付・件名・バージョン」の順番にするといった統一ルールを定めて、同時に「親フォルダ→子フォルダ→ファイルの3ステップ」で必要なデータにたどりつけるように階層を整えましょう。

ノートパソコンのファイルを整理する人

写真=iStock.com/ipuwadol

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/ipuwadol

■空間を立体的に捉えればより有効活用できる

また、探しやすく取り出しやすい状態で保存するには、データにタグを付けたり、検索にひっかかりやすいキーワードを書き込んでおくといったことも効果的です。

私の場合、「後で探しやすくする」という観点で、資料データの表紙やメールの自己署名欄などに「自分だけがわかるキーワード(=検索フック)」を書き込んでいます。「この企業は訪問時に、事前に送ってもらった来訪者QRコードの提示が必要だ」と思ったら、「(社名)QR」と書いておき、そのキーワードで検索すると素早く必要なメールを探し出せます。このように検索フックをつけておくことも、取り出すことを前提としたセッティング=整頓には有効です。

⑤立体で発想する

森琢也『トヨタで学んだハイブリット仕事術』(青春出版社)

森琢也『トヨタで学んだハイブリット仕事術』(青春出版社)

自動車の製造現場では、工具が天井から吊されていることがあります。必要な時に手元まで引っ張り、使い終わると自動で元の位置に戻る仕組みです。このように道具を配置する際は、机や台座の上(平面)だけでなく、立体で考えると、より「すぐ取り出せて、利用しやすい」セッティングが可能となります。

私自身も仕事場のデスク周りは、パソコンや筆記用具、ティッシュ箱、電卓を壁にかけるなどの工夫を行っています。机の上のスペースには限りがありますが、立体で発想することで収納領域は増えますし、何よりも手を伸ばせばすぐに届く環境をつくり出せます。

最近では、固定席がないフリーアドレスの職場も増えていますが、そんな方々も市販の縦置き型の収納バッグを活用して持ち歩くことで、瞬時に必要なものをすぐに取り出せる環境をつくり出すことができます。

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森 琢也(もり・たくや)
中小企業診断士
クック・ビジネスラボ代表。2007年明治大学卒後、トヨタグループの大手自動車部品会社(デンソー)に入社。経営企画部署にて、製造現場でのトヨタ生産方式の浸透、グループ会社支援など、数千億円ビジネスの全体像を学ぶ。事業企画に異動後は、採算改善プロジェクトのリーダーとして、世界5拠点で生産する新製品の採算V字回復などに携わる。約10年の勤務後、リクルートマネジメントソリューションズを経て、2020年に独立。著書に『トヨタで学んだハイブリット仕事術』(青春出版社)がある。

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(中小企業診断士 森 琢也)

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