東日本大震災の被災地、とくに中心の仙台市でブランドバッグや宝飾品、高級車など高額品の売り上げが急増している。背景には、これまでの買い控えからの反動や、地震保険などの保険金の臨時収入を利用し、買い物で心を癒やしたいという被災者の心情があるようだ。
仙台市を代表する百貨店「藤崎」では、5月から全体の売り上げが伸び始めた。6~9月の伸び率は前年比約1割で、全国的に広がる「デパート不況」を考えれば高い伸び率だ。日用品もさることながら、10万円以上する高額品が好調という。
海外ブランドなどの「特選ブティック」部門では、6、7月には売り上げが前年比4割アップ。「美術・呉服・宝飾品」部門でも、6~9月平均で前年比約2割増、8月には5割増を記録する驚異的な伸び率だ。売れ筋は主に海外ブランドの時計やジュエリーなどで、10月に入ってもその勢いは継続している。
「いつどうなるかわからないから、ほしい物は買っておく」「地震保険の範囲内を条件に」…。売り場の声からは、震災後の買い控えからの反動や、義援金や保険金などの臨時収入が背景にあることがうかがえる。
実際、震災後は新規の客が増えたという。
しかし、売り場を統括する服飾雑貨部の大泉聖一部長(53)は「理由はそれだけではない」と指摘する。売り場にはカップルの姿が目立ち、婚約・結婚指輪や時計などの需要が高まった。「つらい震災をともに乗り越えた記念に良い物を残したいという方が、高額品を求める傾向にあるようだ」と説明する。
震災後、周囲が結婚ラッシュに沸いたという山形県の女性会社員(23)は、仙台市内のあるブティックで恋人への誕生日プレゼントを買い求めた。「雰囲気に押されてか、相手への感謝の気持ちが高まってつい奮発してしまいました」と笑顔を見せる。
仙台市内で輸入高級車などを取り扱う「ヤナセ東北」では、9月の販売台数は前年比4割増。4月以降の販売台数も平均2~3割増が続く。売れ筋は、400万~600万円のクラス。津波で車が流失した被災者の代替車や買い替えが多いが、“震災復興特需”で産廃・建設業関係者が新車を購入するケースもあるという。同社は「日がたつにつれ、被災者の中でも、周囲の目を気にせず娯楽を楽しめるようになった人が増えている」と分析している。(渡辺陽子)