仙台市に事業所を新たに構えるIT企業が途切れない。業界の人手不足が慢性化する中、各社は大学や専門学校が集中する学都の人材供給力に期待。危機管理の観点から、本社がある首都圏と交通の便が良い点を評価する声も多い。新型コロナウイルス禍で強まった「脱東京」の流れも、立地を後押ししている。(報道部・土屋聡史)
宮城県の集計によると、県内では近年、IT企業が新規に立地するのはいずれも仙台市で、件数は表の通り。2016年の4社を皮切りに毎年5~7社が安定的に拠点を構え、22年も10月末現在で既に5社が立地した。19年5月のフィリップス・ジャパン(東京)、20年11月のGMOインターネット(同)など大手の進出も目立つ。
国はデジタルトランスフォーメーション(DX)の浸透によりIT人材が30年に最大79万人不足すると推計している。首都圏での確保は限界に近づいており、企業は2010年代後半から地方に着目。コロナ禍に突入した20年には企業の地方移転が顕在化し、工場建設など大型の初期投資が不要なIT企業が地方に目を向けるのは必然だった。
進出先に仙台市が選ばれるのはなぜか。8月に青葉区に新事業所を開いたシステム開発大手NSD(東京)の担当者は「学都のイメージが決断を前に進めた」と話す。
仙台市では6大学と6専門学校、仙台高専の計13機関がIT系の学科・コースを設置。市外にも東北職業能力開発大学校(栗原市)などITに通じる学校が点在する。NSDの担当者は「東北中の人が集う宮城、仙台圏の吸引力に期待は大きい」と語る。
地理的要素の魅力を指摘するのは、青葉区にシステム開発の新拠点を立ち上げたインターコムR&Dセンター(千葉県南房総市)の担当者。仙台-東京間が新幹線で約1時間半の立地を「往来が容易。業務継続計画(BCP)の観点で強みと感じた」と話す。
行政の誘致活動を評価する声もある。ある立地企業の幹部は「競合する他県はOB職員を誘致担当としていたのに対し、宮城、仙台市の担当者はITに明るい中堅ら。印象が良かった」と回顧。宮城より多額の助成金を用意していた他自治体もあったというが「最後は信頼関係で決めた」と明かす。
宮城県の担当者は「助成はもちろん大事だが、根付いてもらうには環境や立地などの要素まで知ってもらうことが大事になる。学校との仲介や企業が欲する情報の提供など、きめ細かい支援で誘致に弾みをつけたい」と話す。
今夏、仙台市に事業所を開設したNSDの栗原善彦執行役員経営企画部長(56)と、インターコム会長兼インターコムR&Dセンター社長の高橋啓介氏(75)に、立地の狙いと今後の展望を聞いた。
地元志向の増加が追い風 NSD・栗原善彦執行役員経営企画部長
-事業所開設の経緯は。
「IT業界に追い風が吹く中、人材獲得は喫緊の課題。かつて若い人は当然のように東京を目指したが、最近は地元志向の人が増えている。コロナ禍で働き方も変わった。待つのではなく、こちらが出向くことが必要と判断した」
-仙台の利点は。
「新卒採用のポテンシャルが高い。東北各県から若年層が集まっているイメージが強かった。親御さんも『地元を離れるならば、東京ではなく仙台で』との感覚があると聞いた」
「現場でトラブルがあっても東京から新幹線一本で行き来できる交通環境は魅力。行政の支援もきめ細かく、東北にゆかりがない当社と地元の学校を主体的につないでくれた」
-展望は。
「企業の最大の資産は人。地元志向で仙台勤務を望む人を中心に最低でも30~50人の採用を目指す。社会全体で多様性への配慮が進む中、女性も積極採用する。仙台は東日本初の事業所。大いなる挑戦の場と位置付け、取り組んでいく」
開拓可能性の高さが魅力 インターコム・高橋啓介会長
-地方に新拠点を構えた経緯は。
「需要が日々増え続けるエンジニアの獲得が急務だった。南房総市のセンターが2019年の台風で一時停電しており、危機管理的にも別拠点が必要だった」
-仙台を選んだ理由は。
「有事を踏まえた業務継続計画(BCP)を考えるに当たり、東日本の中で立地と交通利便性に秀でていた。学校が集積し、人材も豊富。大企業の支店も多く、市場開拓の可能性が高いのも魅力的に映った。トータルバランスに優れている」
-新事業所の将来像は。
「現在は10人以下だが、将来的には30~40人規模にしたい。南房総市にある本社機能を仙台市でも担えるようにすることも検討中だ。弊社の商品は受託開発ではなく、市場調査して一から企画・提案するオールパッケージ型。エンジニアはただ受注をこなすのではなく、自分でソフトウエアを開発して世の中に貢献したいと思うものだ。『地方でもやりがいを満たせる拠点』として確立させたい」