地下鉄東西線が開業した。ラーメンブームである。この二つは関連性がない。しかもちょっとだけずれつつ、いやすこの旅は地下鉄南北線に乗って北へ、そして中華飯店の扉を押した。
「いったいどんな味なんだろうね」と、食べる気満々の2人。目指したのはラーメンではなく、ご当地焼きそばとしてその名が知られてきた「仙台マーボー焼そ ば」だ。企画したのは宮城県中華飲食生活衛生同業組合で、推進委員長・大柳憲太郎さん(42)の店「中華菜館まんみ」が泉中央駅の程近くにあった。
店に入ると、厨房(ちゅうぼう)から漂う食欲そそる香りと、満足そうなお客さんたちの顔。「2013年3月に全国向けテレビ番組で、マーボー焼そばが紹介 されたのがきっかけだったんですよ」と大柳さん。全国でも珍しいメニューなので、宮城のソウルフードとして取り上げたいということだった。仙台の幾つかの 中華飯店に問い合わせがあり、古くからの組合員さんたちの推薦で取材を受けた。
放映後、問い合わせが相次いだ。せっかくの機会だから組合みんなで本物のご当地名物になるよう一押ししていこうと、5月には「仙台マーボー焼そば推進委員会」を立ち上げた。放映2カ月後という素早さだ。
反響がすごかった。県外の人も多く、ベガルタ仙台のホームグラウンドが近いこともあり、アウェーのサポーターたちもいっぱい来てくれたそう。その人たちが ネット上で宣伝してくれたり、仙台市の「伊達美味(だてうま)」ホームページで取り上げられたり、コンビニで期間限定商品として発売されたり…。「組合だ けで頑張ってもできないこと。オール仙台の応援があって今の形になっているんですよ」とうれしそうに話す。
いよいよ目の前に姿を見せ た、仙台マーボー焼そば。「うわっ、熱々!」。麺が見えないほどたっぷりかかったマーボー豆腐の下から、麺をすくい上げながら口へ。そこから先は、おいし いねという言葉以上の気持ちを、箸を運ぶ手の動きが物語る。食べ終えた2人の顔は、いやすこ大満足そのものだ。
マーボー豆腐も麺もおいしい。辛味と少し甘味のあるあんがコシのある麺に絡んで、何ともバランスがいい。「マーボーは丼物より、焼きそばの方が合うかも」と画伯。ほんと、そう。
3年でスターダムにのし上がった一品だが、実は四十数年前は店の賄い食だった。「マーボー豆腐もマーボーラーメンも、おやじの十八番だったんです」。しかも、まんみといえば五目焼きそばで知られる。生まれるべくして生まれたマーボー焼そばは、いつしか表メニューに。
「そうそう、昔、仙台駅前のジャンジャン横丁にあったまんみさん、あの五目焼きそば大好きだったの」。いやすこ画伯、恐るべしである。
「認定48店舗にはいろんなマーボー焼そばがあるよ。真っ赤なマーボー、土鍋に入れて出す店、マーボーなすの店、他も食べてみてね」という推進委員長の声に見送られて泉中央駅へ。
ちょっとずれたり、すこし足を延ばしたりすると、また新しい出合いがある。だから、仙台いやすこ歩きはたまらない。
◎おぼえがき/認定48店 オリジナル提供
麻婆(マーボー)豆腐は中華・四川料理の一つで、豚ひき肉と香辛料を炒め、鶏がらスープを入れて豆腐を煮た料理。150年ほど前の清の時代に誕生したとさ れる。中国語読みでは「マーポードウフ」。麻婆とは、あばた(麻点)のあるおかみさんという意味で、発明者の顔にあばたがあったのが由来という。
清の「芙蓉話旧録」の記載に、「陳麻婆という者がおり、豆腐をうまく料理する。豆腐代に調味料と調理代を含めて、一椀(わん)の値段は八文。(中略)店の屋号を知る人は多くないが、陳麻婆といえば知らない者はいない」とある。
日本に紹介したのは、四川省出身の料理人・陳建民で、日本人の口に合うようにアレンジして広がった。
「仙台マーボー焼そば」は商標登録してあり、宮城県中華飲食生活衛生同業組合の認定人、ミスターchinが認定希望の店に現れ、実際に食して判定する仕組み。今は、主に仙台市内の48店がオリジナルを提供している。
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土地には、その土地ならではの食があります。自他共に認める「いやすこ(仙台弁で食いしん坊のこと)」コンビ、仙台市在住のコピーライター(愛称「みい」)とイラストレーター(愛称「画伯」)が、仙台の食を求めて東へ、西へ。歩いて出合ったおいしい話をお届けします。
(文・みうらうみ 絵・本郷けい子)