仙台市太白区の八木山動物公園に、中国からジャイアントパンダが貸し出されることが固まった22日、東日本大震災で被災した宮城県沿岸部の住民などからは「被災地復興の一助になる」「子どもたちに夢を与えてくれる」などと歓迎する声が相次いだ。仙台市がパンダの受け入れに向けて課題の整理や態勢づくりを急ぐ一方で、同じくパンダの誘致を目指していた秋田市は厳しい立場に置かれた。
八木山動物公園にパンダがやって来ることがほぼ確実になったことを、東日本大震災の爪痕が残る被災地の住民や仙台市民は朗報として受け止め、パンダの到着を心待ちにした。
地区の大半が津波で浸水した石巻市門脇町2丁目の団体職員今井優作さん(26)は「八木山動物公園なら沿岸部の被災者も会いに行くことができる。かわいい姿に元気づけられそうだ」と歓迎。
行政には「観光客が仙台以外の被災地にも足を運んでくれるよう、工夫してほしい」と注文した。
「ぜひ、来てほしいと思っていた」と声を弾ませたのは、宮城県南三陸町の幼稚園教諭佐々木優さん(27)。勤務先の「あさひ幼稚園」(同町)では、パンダのぬいぐるみが園児に大人気だ。
「ことしは行けなかったが、毎年5月の親子旅行で八木山動物公園に行っていた。子どもたちに実物を見せたい」と、うれしそうに話した。
仙台市青葉区の無職木田恒太郎さん(24)は「まだ見たことがないので、ぜひ見に行きたい。震災で沈んでいた気持ちも明るくなる」と顔をほころばせた。
泉区のパート江幡正子さん(45)は「幼いころ、上野動物園でパンダを見て感動した」と振り返った。「輸送や飼育に多額の費用がかかるなら、別な復興事業に使った方がいいのかな、とも思うが、被災地には夢も必要だ。自分も子どもと一緒に見に行きたい」と話した。
◎仙台市長「飼育に万全期す」
パンダの貸与が実現する見通しが付いたことを受け、仙台市の奥山恵美子市長は「飼育に万全を期す」と表明した。市はパンダを受け入れる際に生じる課題の整理を始めている。
パンダの貸与には、資金面と国際保護動物の二つのハードルがある。八木山動物公園を所管する市建設局は「(ジャニーズ事務所の支援で)資金面はある程度解決のめどが立ち、大きく前進する」とみる。
一方、パンダはワシントン条約で商取引が規制されており、繁殖保護という研究目的を確立しなければならない。専用施設や餌の確保、専門職員の配置など中国側が求める基準を満たす必要もあり、「研究のための態勢づくり、飼育の技術的側面が大きな課題だ」と市建設局の担当者は話す。
2000年からパンダを飼育している神戸市立王子動物園は、習性に合わせて雄雌それぞれの屋外展示室と冷房付きの寝室、繁殖用の部屋を整備。パンダ舎前が見学者で混雑しないよう、動線を工夫した広場も設けた。パンダの生態を学ぶため、貸与の前後には獣医師と飼育係を中国に派遣し、研修を受けさせた。
貸与が正式に決まれば、八木山動物公園は急ピッチで受け入れ準備に取り掛かる。遠藤源一郎園長は「飼育技術、餌の確保を含む飼育環境を高めていかなければならない」と話した。
パンダを招致する意義について、奥山市長は「子どもたちが愛くるしい動作を見て少しでも心を癒やすことができれば、東北の被災地にパンダがやってくる意味は大きく広がる」と話した。
15年度には動物公園駅(仮称)を備えた地下鉄東西線が開業する予定で、相乗効果にも期待が高まる。市は貸与が実現した場合、入場見込み数や県観光動態調査の平均消費額などから、初年度の経済効果を約50億円と試算している。