まちなかの公園などでたき火を囲み、交流につなげようという民間の取り組みが全国に広がっている。口火を切ったとされるのが仙台市。2022年秋、JR仙台駅西口の青葉通(青葉区)での社会実験の一環で、「街たき火」のイベントを試みた。規制の多い公道で実現させたことが話題を呼び、各地の関係者の心に火を付けた。(せんだい情報部・門田一徳)
宮城県名取市のJR名取駅西口公園で11日夜、街たき火イベント「たき火のわ」があった。仕事帰りの社会人や近隣マンションに住む親子らが訪れ、揺らめく炎を囲んで会話を楽しんだ。
今年3月11日に続き2回目。東日本大震災後の転入者と昔からの住民との出会いの場づくりとして始まった。主催した実行委員会代表の疋田運琇さん(30)=名取市=は「興味を持って立ち寄ってくれる人もいた。市民の出会いと対話の場を増やすため、半年に1回のペースでイベントを続けていきたい」と語る。
住民主導のたき火イベントは、東京都東村山市では23年1月から西武線東村山駅近くの駐車場で月1回のペースで開催。岐阜市では21年5月から毎月行っているが、仙台駅西口での成功に触発され、岐阜駅周辺でも開いたという。東京都墨田区や山形市、宮城県の多賀城市と気仙沼市でも、主にまちなかの公共空間で行われた。
仙台たき火ティー代表「広まるきっかけをつくったことを市はPRして」
引き金となった仙台市の社会実験は、青葉通の約150メートルで車両の通行を制限し、18日間にわたって多彩な企画を展開した。市都心まちづくり課の担当者は「市民に道路空間の活用例として非常に評価された」と手応えを語る。
街たき火イベントは17日間、延べ約1000人が参加。国土交通省や自治体の職員、大学の研究者も視察に訪れた。運営を担当した任意団体「仙台たき火ティー」は消防や警察、区役所との交渉や許可申請で同課の手厚いサポートを受けたという。
市中心部では、青葉区の勾当台公園市民広場や青葉山公園など開催場所が増えた。仙台たき火ティー代表の大石豊さん(49)=太白区=は「仙台駅近くの一等地で実現させた市の行動力はすごかった」と評価した上で「イベントが全国に広まるきっかけをつくったことを市はもっとPRしてほしい」と提案する。
<武蔵野大ウェルビーイング学部の中村一浩准教授(対話学)の話>
まちなかでのたき火が全国各地に広まった要因としてコロナ禍がある。国内ではソロキャンプが人気となり、たき火の炎をただ映した動画が世界中で爆発的に再生された。
たき火に対する潜在的なニーズが社会で高まったと考えられる。キャンプ場など非日常の空間でしかできなかったイベントが日常空間にも持ち込まれた。
たき火には癒やし、リラックスの効果や人を集める視覚的な作用もあるとされる。より本質的な会話が増えることも期待できる。