東日本大震災の仮設住宅について、政府が民間賃貸住宅のみなし仮設も含め、入居期間の1年延長を決めたことに対し、仮設住宅用に土地を貸した所有者やみなし仮設の貸主の一部から異論が出ている。契約更新に消極的なケースや、行政に制度見直しを求める声がある。大半は延長に好意的だが、長期化への懸念もある。早期の災害公営住宅建設など行政の対応が求められそうだ。
津波浸水地以外の平地が少ない岩手県の被災地では、仮設住宅の用地が公有地だけでは足りず、民有地を借りて建設したケースが目立つ。
岩手県が発注した仮設住宅は10市町村で計1万3851戸。このうち9市町村、戸数の約半数を占める6901戸が民有地に建設された。
<「更新せず」431戸>
県建築住宅課によると、貸借契約は市町村が地権者と交わし、期間は2~3年。契約時点で「契約更新はしない」との意向を示した地権者がいる団地は大槌町、陸前高田市など5市町の13団地、計431戸になる。
契約期間や賃料が有償、無償など契約内容は市町村で異なるという。仮設住宅の入居が長期化すれば、地権者間に不公平感が生じる恐れもある。水田などの場合、返還後の復元も問題となる。
農地を貸している大槌町議の東梅康悦さん(47)は「提供した農家の気持ちも考慮し、きちんとした行政の説明やフォローが重要だ」と指摘する。
仮設団地93カ所のうち、42カ所が民有地に建設された気仙沼市。大半は無償で、契約期間はいずれも2年6カ月だ。
東新城地区2丁目仮設住宅は、同市本郷の無職千葉清治さん(75)の所有地。被災を免れた同地区は土地価格が上昇傾向にあるが、千葉さんは「売るつもりはないので、無償で提供した」と言う。契約延長については「契約終了間際に『更新してくれ』ではなく、市は説明を尽くしてほしい」と注文を付ける。
<石巻は無償契約>
131団地のうち39団地が民有地の石巻市は、阪神大震災などを教訓に無償賃貸契約を約4年で結んでおり、延長は想定内。同市渡波の農業福島慶孝さん(70)は昨年5月、地元に所有する土地約4300平方メートルの貸与契約を市と結んだ。
有償で貸せば年約300万円の賃料が見込まれるが、福島さんは「全国から支援が寄せられる中、賃料を取ることはできない」ときっぱり。
宮城県震災援護室は今後、有償化や返還を求める声が出てくる可能性もあるとして、担当者は「地権者から丁寧に事情を聴くなどして調整したい」と話す。
岩手県建築住宅課は「早期に災害公営住宅を建設し、仮設住宅を解消したい」としている。
◎「個々の実態調査必要」/みなし仮設を扱う業者
みなし仮設の期間延長について、アパートなどの借り上げ仮設住宅を扱う不動産業者や家主の受け止め方は複雑だ。
宮城県宅地建物取引業協会は「借り手がなかった空き物件が引き続き活用されるメリットはある。だが、契約更新には消極的な家主もいる」と明かす。
仙台市青葉区の不動産会社は「震災で持ち家を失ったのではなく、もともと賃貸住宅に住んでいてみなし仮設に移った世帯については、延長を打ち切るなどメリハリが必要では」と、被災程度にかかわらず、一律に住居を提供する制度の見直しを提案する。
みなし仮設の場合、行政側のあっせんなどで、入居者の状況が確認できないままほぼ無条件で入居が決まるケースもある。家主側からは「家賃の支払い能力が見えず、借り上げ期間終了後、トラブルが生じないか不安」との声が漏れる。
宮城県内のみなし仮設は2万6056戸(3月30日現在)で、2万1572戸のプレハブ仮設を上回る。ある不動産関係者は「家賃が公費で賄われている以上、個々の実態調査をした上で延長すべきだ」と話している。