企業からは「使いにくい」の声も……。“エリート養成校”国際教養大学の問題点

就職率ほぼ100%を誇る、秋田県の国際教養大学(AIU)。卒業生の就職先には有名企業がズラリと並び、就職難が続く今、全国から注目を集めている。そんな驚異の大学だけに、在校生たちの学生生活もちょっと普通とは違うようだ。
AIUでは1年次から「英語集中プログラム(EAP)」というカリキュラムが存在し、このプログラムを修了しない限り進級できないという厳しいルールが存在する。また、日本人学生も留学生も、初年度は全員、大学の敷地内にある「こまち寮」で生活することが義務づけられており、約7.5畳の狭い部屋に原則ふたりで入居しなければならない。さらに、その多くは日本人と外国人留学生の相部屋になるという。
ハードルが高すぎるような気もするが、学生たちからは、さほど不満の声は聞こえてこない。
「共同生活は学ぶことが多い。同居人とは入居の際にルールづくりをして、掃除当番とかトイレットペーパー補充の順序とか、トラブルの種になりそうなことを明文化しておく。進級したら、やはり敷地内にある学生用のアパートに引っ越すんですが、ここも基本は相部屋。ほとんどの学生は留学の時期を除いて、ずっと学内で暮らすことになるんです。ですから、ここでは勉強だけでなく人とのコミュニケーション能力も磨ける」(関東地方出身・3年生男子)
AIUでは卒業までに、1年間の海外留学も義務付けられている。加えて、こうした外国人留学生との“草の根交流”によって、グローバルに活躍するために必須のコミュニケーション能力が鍛えられるというわけだ。
しかも、大学があるのは秋田の山間部。遊ぶ場所も限られ、女子学生と合コンや性愛にふけることもない。必須となっている海外留学も成績順で留学先の希望が通るため、みんな人一倍、勉学に励む。勉強中心の学生生活を送るAIUの学生たちが、企業の目に理想の人材と映るのも道理だ。
しかし、人材コンサルタントの常見陽平氏は、こう疑問を投げかける。
「大学側のカリキュラムは魅力的ですけど、就職率や偏差値だけが強調されて伝えられるのはなぜか。中身は本当にそれ相応なのでしょうか。例えば、『教養教育』と言いながら、英語での授業にこだわるあまり、授業内容で教養を深められていないという声もある。グローバルな人材って、英語だけじゃないでしょう。これだけ勉強させて、研究者が生まれないのも謎です。あと、気になるのはやはり都市との距離。東大のトップ層の学生がいまだに優れていると評価される理由は、常に企業や社会人との接点があるから。要は、社会に揉まれて成長するのです。AIUの学生は、そこが心配。実際に企業側からは『使いづらい』という手厳しい評価もある」
この春に4年間勤めていた企業を退職したというある卒業生は、「自分のほかにも日本企業の古い体質と合わずに会社を辞めた人間は少なくないし、みんなが英語を生かせる仕事をできているわけではない」と漏らす。学生時代にムチを打ち続けてきた弊害か、大学に戻りたいと口にするOBも多いとか……。
AIUでの学生生活が、一般的な日本の大学生のそれとは異なることは確かだ。だが、まだ創立9年のAIUは、社会に人材を輩出して5年にすぎない。企業側のAIUの学生に寄せる期待はさておき、彼らが社会に出て本当に使えるのかどうかは、今後の卒業生たちの活躍ぶりが教えてくれることだろう。

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