2019年度の人手不足倒産は前年度比14.8%増の194件となり、6年連続で過去最高件数を更新するなど、人手不足が企業活動に及ぼす悪影響は深刻になっている(帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2019年度)」)。一方で、新型コロナウイルス感染症の影響で企業活動が制約されたことで国内景気が急速に悪化しており、従業員の雇用など「ヒト」に関する動向が注目されている。 そこで、帝国データバンクは人手不足に対する企業の見解について調査を実施した。
正社員不足は31.0%で人手不足割合が大幅に減少、人手が「過剰」とする割合は急増
現在の従業員の過不足状況を尋ねたところ、正社員について「不足」していると回答した企業は31.0%となった。2019年4月の前回調査と比較すると19.3ポイント減少し、4月としては4年ぶりに4割を下回り、人手不足割合は大幅に減少した。「適正」と回答した企業は47.2%で同5.9ポイント増加し、企業の半数弱が人手は適正であると感じている。「過剰」と回答した企業は21.9%で同13.5ポイント増となった。 「不足」していると回答した企業を業種別にみると、「農・林・水産」(48.2%、前年同月比22.9ポイント減)と「建設」(48.2%、同18.1ポイント減)が最も高い。次いで、「メンテナンス・警備・検査」(46.5%、同21.3ポイント減)、「電気通信」(45.5%、同9.1ポイント増)、「情報サービス」(44.6%、同29.8ポイント減)が続いた。 人手不足割合が高い上位10業種のうち9業種が減少となるなか、「電気通信」のみ増加している。電気通信業の企業からは、「在宅勤務の機会が増えたことで受注が増加している」や「リモートワークの動きと通信サービスの提供がマッチし、契約者数が増加傾向にある」といった声にあるように、新型コロナウイルスの感染拡大防止にともなう需要の増加などが影響しているとみられる。 規模別にみると、「大企業」(38.7%)は前年同月比21.3ポイント減少となり、全体の減少幅を上回っている。「中小企業」は29.3%(同18.6ポイント減)、「小規模企業」は28.4%(同14.5%)となり、それぞれ3割を下回った。
非正社員不足は16.6%、4月としては7年ぶりの1割台まで減少
非正社員が「不足」していると回答した企業は16.6%となり(前年同月比15.2ポイント減)、4月としては7年ぶりの1割台となった。「適正」は61.7%(同0.3ポイント増)でほぼ横ばいとなった一方で、「過剰」は21.6%(同14.8ポイント増)となり大きく増加している。 業種別にみると、スーパーマーケットを含む「各種商品小売」は55.3%(同0.8ポイント減)となり、最も高かった。外出自粛にともない需要が拡大していることで、他業種より割合が高くなっている。次いで、「電気通信」(44.4%、同14.4ポイント増)が続き、正社員と同様に増加している。その他、「農・林・水産」、「メンテナンス・警備・検査」、「飲食料品小売」、「医療・福祉・保健衛生」が3割台で続いた。また、「医薬品・日用雑貨品小売」は需要の高まりによって増加している。 一方で、これまで人手不足が目立っていた「飲食店」は16.4%(同62.2ポイント減)、「旅館・ホテル」は6.9%(同47.3ポイント減)と大幅に減少した。 規模別では、「大企業」は19.6%(同16.9ポイント減)、「中小企業」は15.9%(同14.7ポイント減)、「小規模企業」は17.0%(同13.0ポイント減)となり、すべての企業規模で前年から大きく減少している。
新型コロナウイルスの影響が広がるにつれ、人手不足割合は大きく減少
人手不足割合を月次の推移でみると、新型コロナウイルスの影響が広がる以前の期間と比較して、特に3月と4月で大きく変化している。企業からは「新型コロナウイルスの影響で仕事が急減している」(金型部分品・付属品製造)といった声が多くあるように、外出自粛や休業が広がった影響で経済活動が停滞し、業務量が大幅に減少したことで人手不足割合にも変化が起きている。
人手の「過剰」割合が急増、特に「旅館・ホテル」で顕著
さまざまな業種で人手不足割合が減少する一方で、人手が「過剰」と感じている割合が急増している業種もある。特に、「旅館・ホテル」はインバウンド需要に支えられて人手不足状態が続いていたが、新型コロナウイルスの影響で訪日外国人の大幅な減少や外出自粛が続き、人手が過剰とする割合は正社員、非正社員ともに全業種のなかで最も高くなった。「飲食店」や「娯楽サービス」においても同様の傾向がみられる。また、新型コロナウイルスによって「業績にマイナスの影響がある」割合で上位に並んだ業種(帝国データバンク「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2020年4月)」)は、人手が過剰としている割合も高くなっている。
「ポストコロナ」社会における雇用動向に注視する必要
「TDB景気動向調査」(帝国データバンク)によると、4月の景気DIは前月比6.7ポイント減の25.8となり、7カ月連続で悪化した。国内景気は、新型コロナウイルスの影響で外出自粛や休業が広がったことでヒト・モノ・カネの流れが停滞し、急速な悪化が続いている。 こうしたなか、今回の調査からこれまでの人手不足割合に大きな変化が起きていたことが明らかとなった。新型コロナウイルスの影響で経済活動が大幅に制約され業務量が減少したことが主因と考えられる。しかし、生産性の向上による根本的な人手不足の解消とは異なるため、業務量が徐々に回復する過程で再び人手不足割合が高まる可能性がある。また、今後は採用の見送りや失業者の増加、雇用者の減少といった雇用動向とともに、いわゆる「ポストコロナ」社会における求められる人材の変化には注視する必要があろう。 調査概要 調査対象企業:2万3672社 有効回答企業:1万1961社(回答率50.5%) 調査期間:2020年4月16日~30日 調査方法:インターネット調査