長期低迷が続くビール市場でひときわ伸びている商品がある。いわゆる大手5社ではない、全国の小規模醸造所が生産する「クラフトビール」がそれだ。
【詳細画像または表】
国税庁によると、2006年に1414万キロリットルだった販売量が、10年には1607万キロリットルまで増加。最大手のヤッホーブルーイングは今年6月から8月中旬までの売上高が前期比60%増、業界最古参のサンクトガーレンも前期決算が35%の売り上げ増となっている。
クラフトビールの市場は、ビールの醸造免許が交付される下限の年間製造量が、2000キロリットルから60キロリットルに緩和された1994年に生まれた。最初は町おこしの一環として第三セクターなどで製造販売されるケースが多かった。一時はこうした醸造所が全国で300社を超えるほどに成長したが、ブームの終息とともに売り上げが激減。銀河高原ビールのように、経営破綻する例も急増した。
転機は2000年代後半だった。味の設計で本格的なこだわりを持ち、ビールの国際コンクールで入賞するなどの実力を持つ醸造所や、フルーツやスイーツなどの味のバリエーションを豊富に取りそろえた商品が出てきた。これがインターネット通販で話題になった後、徐々に最大市場である首都圏の消費者を捉えるビジネスモデルを確立する醸造所が増えた。
● 都心の小売り・外食で販売も
サンクトガーレンはパーク ハイアット 東京で5年連続で夏限定のビアホールを開催している。「従来のビール愛好家だけではなく、普段はビールを飲まない女性や若者が興味を持って飲んでいる」(岩本伸久・サンクトガーレン代表取締役)というように、大手ビールメーカーがなかなか開拓し切れなかった層に届いている。
ヤッホーブルーイングは、イトーヨーカ堂、ローソンなど大手小売りでの商品販売に加え、外食のワンダーテーブルと組み、今秋から都内で直営店をオープンさせる。高価だった価格も、大手のプレミアムビールと同等程度になったのも販売好調を後押ししている。
小規模醸造所に対して酒税の優遇政策のある欧米では、クラフトビールのシェアはビール市場全体の10%にも達し、30%に達する地域もある。「日本でも数年後には、ビール市場全体の1%ほどはクラフトビールが占めるようになる。大手5社の一角のオリオンビールを抜くくらいには成長するはずだ」とヤッホーブルーイングの井出直行社長は期待する。
「新作が出ると大手メーカーのマーケティング担当から必ず大量に注文が入る」(クラフトビール業界関係者)など、大手も動向を注視している。現にアサヒビールではベルギーのヒューガルテンホワイトの販売権を08年に取得、キリンビールはオーストラリア子会社のライオン傘下のクラフトビールメーカーとクラフトビールに関する情報交換をしているもようだ。
クラフトビール人気が“ビール離れ”への解の一つになるとともに、ビール業界の競争構造にも影響を与える可能性がある。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)