住みたい街の基準、潮目は変わったのか?

毎年発表されている「住みたい街(駅)ランキング」に、今、異変が起きている。大手不動産情報サイト「HOME’S」がユーザーを対象にした調査に基づいて発表した「買って住みたい街ランキング首都圏版」では「船橋」が、そして「借りて住みたい街ランキング」では「池袋」が、「吉祥寺」や「恵比寿」といった人気の街を押さえて1位になったのだ。

【生活費が抑えられそうな街ランキング】

また各種ランキングでは、「北千住」や「赤羽」など、今までは見向きもされなかった庶民的な街が、新たな人気エリアとして浮上している。今後、どんな街が浮上して、どんな街が寂れていくのか──。住む街を決めるうえでは、常に動向をチェックしておく必要がある。

●買って住みたい街ランキング1位はなんと船橋に

HOME’S総研が発表した「2017年 買って住みたい街ランキング首都圏版」では、船橋が1位に輝くという意外な結果が出た。今までは、地域イメージが良かったり、大規模マンションや駅周辺の再開発で地域のポテンシャルが向上する街(駅)がランクインしていた。

2016年のランキングと比較しても、上位を占めた吉祥寺、横浜、恵比寿は軒並みランクダウンし、吉祥寺と恵比寿に至っては圏外まで落ちた。

このような“波乱”が起きた背景には、アンケートの集計方法の変更が関係している。2016年版までは、首都圏(1都3県)の居住者を対象にしたインターネット調査(有効回答数1030票)で、どちらかといえば、「街の人気投票」という側面が強かった。近年、都心の人気エリアの住宅物件は、とても庶民には手が届かないほど価格が高騰している。とはいえ、こういったエリアはブランド力があって便利なので、「今の収入では吉祥寺や恵比寿に買って住むのは無理だけど、住めるのなら住みたいよね」ということで票が入り、その結果、ブランド力が高い街(駅)が上位を占める、我々の生活実態とはかけ離れたランキングになってしまっていたのだ。

気の毒なのは、首都圏のこうした実態に疎いまま上京してきた地方の人たちである。人気エリアは賃料も高いので、「買って住む」どころか「借りて住む」のもままならない。しかし、ブランド力が高い駅が上位を占めるランキングに影響を受けて、「上京したら、絶対に吉祥寺に住む!」となり、少し離れた場所なら駅から徒歩5分、バス・トイレ別の1DKに住めるのに、吉祥寺駅からバスで15分の場所にあるワンルームに住む……となってしまうのだ。

もう何年も首都圏に住んでいる人ならば、すでに駅周辺が開発し尽くされて住宅供給ができない吉祥寺や、家賃がバカ高い割には買い物が不便な恵比寿が、必ずしも「住みやすい街」ではないことを重々承知している。タワーマンションの林立で注目を高める武蔵小杉も交通利便性は高いが、駅の混雑や待機児童の増加など、住民の急増によって生じる問題に対応しきれていない面がある。

しかし、地方にはそうした細かい情報はどうしても伝わりにくいので、結局は不動産情報サイトなどが発表する「住みたい街ランキング」が街(駅)選びの指標になってしまっているのだ。

●リアルな志向が反映された「住みたい街ランキング」とは?

そういった意味では、HOME’S総研が発表した「住みたい街ランキング2017年版」は、「ブランド志向」の順位付けに一石を投じる結果になっている。2017年版からは、ユーザーから問い合わせが多かった駅名を1年間(2016年1月1日~12月31日)集計する形式になった。その結果、浦和、柏、本厚木、橋本など、「リアルに物件が買えそうな郊外の街(駅)」が軒並み上位にランクインしたのだ。

「買って住みたい街」の1位に輝いた船橋は、首都圏の西側エリアに住む人たちから見れば、何となく遠そうなイメージがある。だが実際は、東京駅から20キロ圏内、乗り換えなしで25分前後という好立地で、なおかつショッピング施設も充実している。さらに東西線、総武線、京葉線、京成線といった路線網が充実しているが、その割には物件の価格がそれほど高くなく、今回の順位につながったといえる。

ちなみに、HOME’S総研が行った船橋市民の座談会では、「大都会でもなく田舎でもなく、ほどよい環境」「良く言えば気取っていない」「船橋に住んでいる人は船橋を出ない」といった魅力が語られている。船橋には競馬場や競艇などのギャンブル施設が多く、それゆえに「治安が悪い」とイメージが根強かった。だが再開発が本格化したことでそういったイメージが薄れ、「一生住みたい街」に選ばれているのかもしれない。

●「借りて住みたい街ランキング」は池袋が1位

HOME’S総研が発表した「2017年 借りて住みたい街ランキング首都圏版」も、「買って住みたい」ほどではないが、集計方法が変わったことで、より実情が反映されたランキングになっている。

新宿や渋谷のような巨大ターミナル駅は、一見住みやすそうに思えるが、実はスーパーなどのライフ環境が乏しく、家賃が高い割には住みにくい。しかし、池袋の場合は、椎名町や落合方面に行けば、手頃な賃貸物件がいくつもあり、その辺が順位に反映されたと思われる。

職場と自宅が近い距離にある「職住近接」は、業務の能率を上げるなどメリットが多いが、オフィスが都心にあると賃料の高さがネックになってしまう。しかし、池袋周辺は都心エリアでも比較的賃料が安いので、職場の近くに住みたい人にはうってつけな場所でもある。

また「買って住みたい街ランキング」では躍進を遂げた千葉勢だが、「借りて住みたい街ランキング」には1つも入っていなかった。これは「買って住むなら消去法的に千葉にせざるを得ないけど、借りて住むなら、もう少し都心のほうがいい」というニーズが反映されたとみられる。「買って住みたい~~」では船橋が1位になったが、吉祥寺や恵比寿のようなブランド力を持つまでには至っていないのが実情のようだ。

●「北千住」「赤羽」の台頭から読み取る街選びの変化

HOME’S総研では、各種さまざまな街(駅)にまつわるランキングを発表しているが、そこから「買って住みたい~~」「借りて住みたい~~」に反映されていない、ニッチなニーズを見て取ることができる。こうしたランキングも、自分に合った街を探す際の重要な指針となる。

例えば、「生活費が抑えられそうな街(駅)」のランキングでは、1位に北千住、3位に赤羽が入っているが、この2つの街は、最近では「穴場エリア」として注目が高まっている。特に北千住の場合は、不動産情報サイト「SUUMO」を運営する株式会社リクルート住まいカンパニーが発表した「穴場だと思う街ランキング」で3年連続1位を獲得しており、もはや人気駅の仲間入りを果たした印象もある。

首都圏は、江戸城(現在の皇居)を中心として城東・城西・城南・城北の4エリアに分類されるが、今までは城南・城西エリアに人気が集中し、城北・城東エリアの街のブランド力は低迷し続けていた。

北千住は常磐線や日比谷線など5路線が乗り入れており、赤羽も池袋・新宿・渋谷・東京・品川にダイレクトアクセスできる屈指の交通利便性を有している。にもかかわらず、吉祥寺や自由が丘などの後塵(こうじん)を拝し続けてきたのは、人気がない城北・城東エリアに位置していたからだ。

しかし、2012年に開業した東京スカイツリーが、「城南・城西>城北・城東」の風潮に一石を投じる。スカイツリーが建ったことで東京の東側エリアへの注目が高まり、その過程で、人々が東側エリアの魅力に気付き始めたのだ。交通利便性が高い割には家賃がお手頃というのも大きいが、昔ながらの商店街に代表される「下町の雰囲気」が、人気の下支えになっている。

HOME’S総研が調査・集計した「スッピンで歩けそうな街(駅)」ランキングでは、赤羽が1位、北千住が4位に入っている。北千住などはマルイやルミネといった商業地が充実しているので、実際にスッピンで歩けるかどうかは分からないが、この「気取らなくていい庶民派」のイメージが、昨今の街選びでは重要な指標のひとつになっているのだ。

また、北千住や赤羽は飲食街が充実しており、特に赤羽は「昼から飲める街」のイメージが定着している。また清野とおる原作の漫画が『山田孝之の東京都北区赤羽』としてドラマ化されたことで、赤羽のブランドもにわかに高まっている。

●「これから伸びる街」はあちこちに存在する!?

庶民的な雰囲気や交通利便性の高さで「穴場的人気」を確立させた北千住と赤羽だが、賃料はじわじわと上昇しており、「すでに穴場ではなくなった」という声もある。

一方で、交通利便性が高く、商業地が多い割には賃料が安い「穴場エリア」は他にもたくさんある。城東エリアでいえば金町や南柏、城北エリアだと与野や北浦和、城南・城西エリアでも始発駅の橋本、昔ながらの商店街や飲食店が残る大井町などが、今後伸びる可能性を秘めているといえる。

タイトルとURLをコピーしました