長谷工コーポレーショングループの長谷工アーベスト(東京都港区)は、「住みたい街(駅)ランキング2018」の結果を発表した。上位には高級住宅街をはじめ知名度の高い街がずらりと並ぶ中、数年前までは20位圏外にあった街も上位進出を果たす動きが顕在化している。
「吉祥寺だけが住みたい街ですか?」。記者は2年前に放映された、漫画を原作とする深夜ドラマにはまっていた。
ドラマの主人公は、吉祥寺の不動産屋さんを営む双子。森三中の大島美幸さんとメイプル超合金の安藤なつさんが演じた。吉祥寺(東京都武蔵野市)に住む夢を抱いた人が店舗を訪れ生活スタイルや事情などを説明した上で、双子が「吉祥寺でない方がいい」と判断した場合、「都内には吉祥寺以外にあなたにふさわしい街がある」と客を伴ってその場所を訪問。楽しみながら魅力を紹介するストーリーだ。
長谷工のランキングもドラマのタイトル通り。2位の横浜の1・7倍という圧倒的な得票数で、吉祥寺がトップだった。このランキング調査は14回目だが、第1回から王座に君臨し続けている。「井の頭公園に近く住環境がよい」「買い物が便利」-。吉祥寺が好かれる理由だが、マンション開発に適した土地は極めて少ない。新築の分譲物件に住みたくても難しいというのが実情のようだ。
16年調査では20位圏外だったが台頭が著しい街がある。そのひとつが北千住(東京都足立区)。17年は8位で18年は7位に上昇した。
長谷工アーベストの林祐美子・市場調査部部長によると「平成23年の東日本大震災で帰宅難民が深刻化した結果、複数路線が走る駅の人気が高まった」そうだ。北千住駅は常磐線、千代田線、日比谷線、伊勢崎線、つくばエクスプレスという5路線が乗り入れる充実した鉄道インフラに加え、大学の誘致によって若い人が増えた点が人気の要因だといえる。
東京都の北の玄関口である赤羽(同北区)は昨年から8つも順位を上げた。上野東京ラインの開通で利便性が大幅に向上しながら、割安な価格で住むことができるのが要因だ。親しみやすい街である点も人気の理由。「安い飲み屋が軒を連ねていることが魅力」と地元在住の60代男性が指摘するように、1000円程度で酔える“せんべろ”店が多いことでも知られている。11月からは地元出身の人気バンド、エレファントカシマシの楽曲がJR赤羽駅の発車メロディーで流れており、さらなるブランド向上に弾みをつける。
池袋(同豊島区)も16年の16位から17年の10位、18年の4位と着実に上昇。再開発の進展や商業施設のリニューアルなどがイメージアップに貢献した。中目黒(同目黒区)は17年にいったん順位を下げたが、再浮上を果たした。駅高架下の再開発によって多くの飲食店などが集まったのが原動力となった。
一方、順位を大きく下げた街のひとつが武蔵小杉(川崎市中原区)だ。タワーマンションや大型商業施設の開発に加え、「ムサコマダム」といった造語を通じイメージが大幅に向上。17年は吉祥寺に次ぐ2位に躍進したが、18年は7位に下がった。人口の急激な増加によって「朝のラッシュ時にホームが大混雑している」「保育施設が不足している」といった負の情報が拡散し、マイナスイメージにつながったようだ。
今後、さらなる上昇が見込まれるのが品川(東京都港区)。リニア新幹線の開通と新駅の開設に伴い再開発が進むからだ。複々線化によって混雑が緩和した小田急沿線も、人気が高まる可能性が高い。
記者が住んでいる街は同調査が始まった初期、ベスト10に入っていた。しかし現在は遠く及ばない順位。近隣エリアではホテルの開発・稼働が相次いでいるが、街のたたずまいがあまり変わらないというのが理由のひとつだとみている。長谷工アーベストの林部長も「東京ディズニーランドと同じように、街は変化し続けることが重要。結果として外部から人を呼び込めるようになれば、街としての評価と将来性が高まる」と指摘している。(伊藤俊祐)