住宅メーカー社員の自殺、カスハラ原因と労災認定…「銭なんか払えねえ」と客から強い口調でクレーム

2020年に住宅メーカーの男性社員(当時24歳)が自殺したのは、客から著しい迷惑行為を受けた「カスタマーハラスメント(カスハラ)」などで精神疾患を発症したことが原因だとして、柏労働基準監督署(千葉県)が労災認定していたことがわかった。自殺とカスハラの因果関係を認める労災認定が明らかになるのは異例。

 男性は、19年4月に埼玉県越谷市の「ポラス」に入社し、関連会社で注文住宅販売の営業を担当。千葉県内の住宅展示場で働いていた20年8月末、社員寮の自室から飛び降りて亡くなり、両親が22年2月に労災申請していた。

 労災認定は昨年10月。認定などによると、男性は20年2月、住宅を新築中の男性顧客に追加費用が必要になったと説明したことをきっかけに、この顧客から叱責(しっせき)を受けるようになった。業者が汚した隣地の外壁を清掃させられたほか、休日に電話に出なかったことに怒りをぶつけられたこともあった。こうしたクレームの詳細を上司らは把握していなかった。

 20年8月上旬には、業者が現場近くの路上に駐車し、近隣住民に迷惑がかかっていると顧客から強い口調でクレームがあった。男性の携帯電話には「そんなんじゃ銭なんか払えねえぞ」「すいませんで済むか、おめえ」などとまくし立てる音声が残されていた。男性は、責任者だった現場監督とともに顧客宅を訪れて謝罪したが、20分ほど一方的に話を聞かされ、「バカ」などと責められたという。

 これらを踏まえ、同労基署は、精神障害の労災認定基準にある「顧客らから対応が困難な注文や要求を受けた」「顧客らから著しい迷惑行為を受けた」にあたると指摘。強い心理的負荷がかかり、精神疾患を発症したと判断した。

 「著しい迷惑行為」については、厚生労働省が昨年9月、カスハラの類型に位置付け、労災の新たな認定基準に加えている。

 両親側代理人の生越照幸弁護士は取材に対し、「利益をもたらす客に企業側が強く対応するのは難しく、カスハラの問題は表面化しにくいが、今回は通話の記録があり、認定の決め手の一つになった」と述べた。

 一方、今回の認定は、会社側の対応も問題視した。クレームを受けた際の相談・報告体制のルールが会社側になかったためだ。

 ポラスは「カスハラなどを理由とする労災認定を会社として真摯(しんし)に受け止め、誠意を持って遺族に対応している。再発防止に向けた取り組みを引き続き、行っていく」とし、カスハラ相談窓口の拡充や、外部機関と連携したメンタルヘルスケアなどに取り組んでいるとした。

両親「客なら何をしてもいいわけではない」

 男性の両親が今月取材に応じ、「客なら何をしてもいいわけではない。同じような被害が二度と起きてほしくない」と訴えた。

 両親によると、男性は幼い頃から不器用だが、責任感が強い性格だった。入社1年目は販売成績が優秀で会社から表彰された。ところが亡くなる2か月前、父親に「2年目の壁にぶつかっている」と伝えていた。「みんな忙しそうで、助けてもらえる時間がない」とも漏らしていたという。

 両親は、息子の悩みに気づけなかった自分たちを責め続けている。その上で、父親は「客は怒りをぶつけられる側の気持ちをほんの少しでも想像してほしかった」とし、母親は「助けを求められる職場環境を整えてほしい」と話した。

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