運送業といえば男性の力仕事と考えがちだが、佐川急便などを傘下に持つSGホールディングスは女性の採用を積極的に進め、イメージを覆そうとしている。特に佐川急便はネット通販好きの一人暮らしの女性に対し、女性の配達サービスで安心感を高め、会社のイメージアップにつなげる狙いだ。同社の男性配達員は「さわやかでかっこいい」ことから“佐川男子”として人気を集めているが、これからは「元気でかれん」な“佐川女子”が取って代わるかもしれない。
[男子に負けない] 佐川ダッシュ! 丁寧な仕事で初の女性管理職
京都・祇園。格子戸が居並ぶ美しい街並みに、やや甲高い「行ってきます」の声が元気よく鳴り響く。佐川急便の集配センター「祇園佐川急便」の女性配達員は日々、台車に荷物を乗せて街を駆け回っている。祇園佐川急便のスタッフは、センター長の北浦敬次さん以外、すべて女性だ。それというのも「祇園は花街。(配達員が女性なら)朝がゆっくりの人が、化粧をしなくても荷物を受け取れる」(北浦さん)からだとか。
また、北浦さんは「女性は物腰が柔らかく、細かい気配りができる」とも。実際、配達員は配達先の出入りで声かけと一礼を欠かさず、「行儀がいい」「女性でよかった」などと評判になっているという。佐川急便にとって、京都は創業の地。祇園佐川急便は平成22年6月、集配機能を持つ情報発信基地としてオープンした。建物はレトロな木造2階建てで、配達員の制服は車夫をイメージするこだわりよう。記念写真を撮影する観光客も多いという。ここは今、持ち株会社のSGホールディングスが進める女性の積極採用の“シンボル”にもなりつつあるようだ。
SGホールディングスでは23年4月、栗和田栄一会長兼社長の「女性が活躍できる会社にする」という鶴の一声で、女性の積極採用を本格化させた。その背景はネット通販の広がりだ。仕事をしている一人暮らしの女性は、朝や夜に荷物を受け取ることが多い。こうした利用者からは「女性に届けてほしい」という要望が多いという。
また、個人宅に届ける宅配便は小型で軽量な荷物が多く、トラックに載せなくても女性配達員が軽車両や台車で配達できる。佐川急便は宅配便の取り扱い増加に合わせ、こうした配達に適した小型の集配センターを増やしている。SGホールディングス人事部の小林康男ゼネラルマネジャーは、「男性しかできない仕事から、女性でも活躍できる仕事になってきている」と話す。
女性採用の強化は佐川急便だけでなく、グループ全体の取り組みだ。育児・介護規定の改定や休業・休暇制度の拡充、私服勤務の開始など、女性が働きやすい環境整備を進めている。「女性の職域拡大」も打ち出し、車両整備会社の「SGモータース」では、軽車両を整備する女性だけのチームが誕生したという。
女性を応援する取り組みは徐々に成果をあげている。23年9月に1万4738人だったSGホールディングスの女性社員は、24年12月現在で1万5953人に増加。しかも女性の視点を取り入れるという観点から「3年程度で女性が収益の3割を生み出せるようにする」(栗和田会長兼社長)という目標も掲げている。
一方、競合他社は「特に女性の採用に目標は掲げていない」(ヤマトホールディングス)などとしており、SGホールディングスの取り組みは業界内を先んじているといえそうだ。「男性が行きにくいところにも配達に行ける。体を思いっきり動かして、やりがいを感じている」。祇園佐川急便の女性配達員、酒井知恵さん(23)は、にこやかに話す。平成25年は“佐川女子”が話題をさらう1年になりそうだ。(中村智隆)