「スメハラ」という言葉がすっかり一般的になり、体臭ケアを気にかけている男性も多いだろう。清潔に保つのはもちろん大切だけれど、それだけでは、中年のにおい対策としては不十分だ。
体臭とは、汗や皮脂などの分泌物と常在菌の作用によって発生する「皮膚ガス」のにおい。汗も皮脂ももとからくさいわけではなく、生活スタイルや体調によって悪臭化する。言うなれば、30歳過ぎての「くさい」は「生活習慣臭」。においを改善したければ、体の中にも意識を向ける必要があるのだ。
そこで、『日本人はなぜ臭いと言われるのか 体臭と口臭の科学』(光文社新書)などの著書があり、講演、テレビなどでヘルスケア情報を発信する内科医の桐村里紗氏監修のもと、においの原因と対策を探る。
まずは、においの種類と原因をまとめてみよう。
◆すっぱいにおい・ぞうきんのような体臭――汗臭・腋臭
汗は汗腺で血液を材料につくられる。汗腺には2種類あって、ひとつが全身にあるエクリン汗腺。もうひとつが、腋の下や陰部など限られた場所にあるアポクリン汗腺だ。
エクリン汗腺から出る汗の99%は水分で、汗自体はほとんどにおわない。しかし、汗腺の機能が落ちると、本来、再吸収されるべきミネラル分が残ったままとなり、しょっぱいベタベタ汗になる。これが常在菌のいいエサとなり菌が繁殖、いやな汗臭を発生させてしまうのだ。
一方、アポクリン腺からの汗は、汗自体にたんぱく質や脂質、糖質、アンモニア、鉄分などの栄養成分を豊富に含まれている。常在菌が増えやすく、分解された成分が発酵して腋臭となる。
ちなみに、アポクリン汗腺の量は遺伝的に決まっていて、病的なものではなく体質。黒人や欧米人のほとんどが腋臭で、日本人では10~15%と言われている。
◆ツンとしたアンモニアのような体臭――疲労臭・老人臭
有毒な物質を解毒・分解する役割を担っているのが肝臓だ。疲労によって蓄積された疲労物質(アンモニアなど)が肝臓で処理できず、汗によって排出されると、体臭がアンモニアくさくなる。
また、肝機能が低下すると、食べたものが腸内で腸内の常在菌によって分解されるときに発生したにおい物質が無毒化&無臭化されないため、皮膚のにおいとなる。
◆使い古した油のような体臭――ミドル脂臭
皮脂の分泌が増える30~40代になると強くなるのが「ミドル脂臭」。汗の中の乳酸が発生させた「ジアセチル」と皮脂に含まれる中鎖脂肪酸が合体した混合臭で、すえたくどいにおいが特徴だ。
頭部は汗腺と皮脂腺が多く、さらに髪の毛で蒸れて常在菌も増えやすいので、さらに悪臭化しやすい。「パパの枕、くさ~い!」の原因はミドル脂臭の可能性大。
◆枯れ草のにおいのような体臭——加齢臭
40代を過ぎて、耳の後ろや体幹から枯れ草やホコリっぽいにおいがしたら、それは加齢臭。皮脂の脂肪酸が酸化して発生する「ノネナール」が原因だ。
ひなびたそのにおいに哀愁を感じる人もいるそうで、いいにおいをプラスさせて個性にすると人間の深みを演出できるというフレグランススペシャリストもいるとか。
しかし、40代後半から50代前半は、汗臭×ミドル脂臭×加齢臭がそろい踏みとなることもあり、そのにおいは強烈なものになる。
◆納豆臭、ウォシュチーズ臭――足のにおい
足のにおいも、汗や皮脂を常在菌が分解してにおい成分(イソ吉草酸、酪酸、酢酸など)がつくりだされて発生する。靴の中は「高温多湿」「豊富な角質」で、菌にとってはパラダイス。足の裏の汗腺は体幹の5倍もあるので汗をかきやすく、においの原料供給もばっちり。かくして、足から強烈な臭気を出すことになる。
◆ネギくさい体臭――ストレス臭
ストレスから発生するにおいもある。ストレスがかかると、交感神経の働きでストレスホルモンが分泌され、活性酸素が増加。皮脂が酸化して、におい成分「STチオジメタン」が発生する。
また、ストレスを感じるとアンモニアが発生するし、緊張が高まると手足から発汗がして足臭もひどくなり、唾液が減るため口臭もくさくなる。長時間の膠着した会議の後、部屋の中がモワッと異臭がするのも当然なのだ。
◆甘酸っぱいような体臭――ケトン臭
人の体は糖を燃焼させてエネルギーを作っているが、糖のかわりに脂肪を燃焼させるようになると、肝臓でケトン体がつくられる。このケトン体が尿に出るようになると、口臭や汗が独特の甘酸っぱいにおいになる。
しかし、このにおいがするのは徹底した糖質制限ダイエットをしている人か、糖尿病で血糖コントロールができていない人。初期の糖尿病やキチンと摂生ができている人から、におうことはない。
◆体臭改善・におい対策、基本の5選
中年になれば、誰しもにおいの原因はもっている。では、どうしたらいいのか。続いて、におい対策を6つ紹介しよう。
▼有酸素運動をする→汗の質が変わる
サラサラのいい汗をかけば、汗臭を防ぐことができる。そのためには、汗腺を目覚めさせ、きちんと働かせることが大切だ。
効果的なのが、ゆっくりと体温を上げる有酸素運動。習慣化すれば、汗の質が変わっていくのを実感できるはず。また、有酸素運動は抗酸化力をあげるので、ダブルでにおい対策となる。
そのほか、湯船につかる、エアコンで部屋を冷やしすぎないなど、適切に体温が上下する生活を心がけるべし。
▼痩せる→皮脂の過剰分泌を抑える
ミドル脂臭も加齢臭も、においのもとは皮脂。皮脂の過剰な分泌を抑えるためには、血中の中性脂肪を高めないようにすることが大切。具体的には、アルコールを控え、暴飲暴食をやめる。酸化した脂をとりすぎない。スイーツの食べすぎも血液をドロドロにする原因となるので控えよう。
食べすぎ&太りすぎの人は脂肪肝になっているケースが多い。体重が減ると肝臓に貯まっていた脂肪もとれ、肝機能も改善されるのでにおいは一気に改善する。
▼よく噛んで食べる→口臭や便の悪臭を改善
胃や腸の働きが悪くなると、タンパク質が消化しきれず、腸内で腐敗しにおい成分を発生させる。そのにおいは口臭や便のにおいを悪臭化させる。よく噛んで食べることで、胃での消化を助けることができる。
また、よく噛むと唾液腺が刺激され、唾液がたくさん出てくるので口臭予防にも効果的。
▼食べ物に注意→抗酸化物質で加齢臭を改善
皮脂の原料となる血糖値を上げるジュースやスイーツ、炭水化物の取りすぎに注意すること。発酵食品や善玉菌を育てる食物繊維を積極的にとって腸内環境を整えるのが、食事でできるにおい対策の第一歩だ。
さらに、加齢臭対策には抗酸化物質を積極的にとることが重要。これは、におい対策だけでなく老化防止にもなる。
その抗酸化物質をたくさん含むのが、アボカドやナッツ類、ゴマ類に含まれるビタミンE。ビタミンEはビタミンCも一緒に食べると抗酸化力が持続するので、柑橘類やピーマン、ケールなどもあわせて食べるのが効果的。
また、「フィトケミカル」と呼ばれる野菜などに含まれる色や香りの成分も、抗酸化力が高い。その代表選手は以下のとおり。
<フィトケミカル>
・ニンジンに含まれるβカロチンやトマトのリコピンなど、黄、橙、赤色のもととなる「カルテノイド」。
・ホウレンソウ・ブロッコリー・ピーマン・小松菜・水菜・青梗菜・ケールなど、緑の野菜に含まれる「クロロフィル」。
・ブドウやリンゴ、イチゴ、ブルーベリーなどの果物のほか、ナスやシソなど紫色の野菜の「アントシアニン」。
・コーヒーや黒い野菜の「クロロゲン酸」
・大豆に含まれる「イソフラボン」
・ゴマに含まれる「セサミン」
▼いい睡眠でストレスの少ない生活を
加齢臭は、脂の酸化が関連している。ストレスによって酸化が促進されるので、入浴してリラックスをし、しっかり寝ることがにおい対策にもなる。
多忙で不規則な生活が続き、睡眠不足で慢性的に疲れている人は、ほぼまちがいなくにおうはずだ。とくに「朝起きられないけれど、夕方になると元気になる」という人は、ストレスで副腎はクタクタ、自律神経もガタガタ。夜になると元気になるので、うっかり飲みに行ったりするかもしれないが……。そんな日々が続いていたら、「くさい」だけでは済まされない。マジで倒れる秒読み段階だと心得るべし。
◆体臭ケアアイテムは賢く使い、頼りすぎない
ドラッグストアに行けば、たくさんのにおいケア商品で溢れている。闇雲に使っていると逆効果のこともあるのでご注意を。
たとえば、「制汗剤」は、化合物によって毛穴をふさぎ、汗そのものの量を減すことで、常在菌の繁殖を抑えにおいの発生を抑える、というもの。
汗腺を塞ぎ、サラサラ汗がかけなくなると、むしろ、においの原因菌が増えやすいドロドロ汗しかかけなくなる懸念もある。使うときには、脇の下や足の裏などのポイントだけにし、休みの日は使用控えるなど汗腺に負担をかけないようにしよう。
また、制汗剤には殺菌成分を配合しているものも多い。強い腋臭体質の人には殺菌成分配合は有効だけれど、それほど汗の量が多くない人が殺菌を意識しすぎると、善玉菌を殺してしまうことになる。すると、皮脂のバランスが崩れて、より脂臭くなる可能性もある。
におい成分をイオン分解する消臭剤を汗や肌着にスプレーしたり、抗菌繊維や消臭効果のある肌着や靴下を使うといったことでも十分ケアできる。常在菌のバランスを保ちながら、ケアをしていくことが大切だ。
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中高年のにおい、年齢のせいと諦めずに、乱れた生活習慣のせいで悪化する「生活習慣臭」と心得てほしい。そして、そのもっとも効果的で抜本的な対策は「規則正しい生活」だ。聞き飽きたフレーズだけど、「健康のため」と言われても心は動かないが、「くさいヤツと思われたくない!」という気持ちはモチベーションになるのでは?
日本人女性、とくに若い女性はにおいに敏感だという調査データもある。くさい男は嫌われる。ほぼ、間違いなく嫌われる。職場で文字どおりの鼻摘まみものになる前に、生活改善しようではないか!
【監修・桐村里紗 先生】
内科医・認定産業医。1980年生まれ。テレビや書籍などで、分子整合栄養医学や生命科学、常在細菌学、意識科学などをもとにしたヘルスケア情報を発信。治療よりも予防重視のアドバイスを行う。著書に『日本人はなぜ臭いと言われるのか 体臭と口臭の科学』(光文社新書)など
<取材・文/鈴木靖子>