東日本大震災の死者をテーマにした小説「想像ラジオ」(河出書房新社)が話題となっている作家いとうせいこうさん(52)と読者との交流イベントが2日、仙台市青葉区の東北学院大土樋キャンパスであった。自作については口を閉ざしてきたいとうさんが初めて、作品に込めた思いを語った。
東北学院大地域共生推進機構が主催し、学生や市民ら約180人が参加した。いとうさんは「人は死者の声と対話しながら歴史をつくってきた。死者の声に耳を澄ますことが大切」「想像力を取り戻してより良い未来を考えてほしい」と語った。
「想像ラジオ」は、いとうさんの16年ぶりの作品。津波で犠牲になった男がラジオDJとして登場し、パーソナリティーを務める番組「想像ラジオ」で震災で亡くなった人々の声を伝える。死者と生者の世界をつなぎ、死者の思いを想像することの意味を問う物語。
芥川賞候補、三島由紀夫賞候補になるなど反響を呼んだが、いとうさんはこれまで作品について取材に応じなかった。「被災者を傷つけないよう、ぎりぎりの表現をした。取材を受けると余計なことを言ってしまう恐れがあった」と話した。
いとうさんとのトークに参加した仙台市宮城野区の介護福祉士須藤文音さん(26)は、津波で父を亡くした。「小説を読んで、生者は死者と共に生きる、生者の中に死者が生き続けているということを実感した」と伝えた。
石巻市の石巻商高3年の沼津明日香さん(17)は「自分たちの思いを代弁してくれている小説だと思った」と話した。
いとうさんは小説「ノーライフキング」で作家デビュー。音楽家、タレントとしても幅広く活動する。「想像ラジオ」は野間文芸新人賞を受賞。