11月中旬の平日、今話題のワークマンの新型店「ワークマンプラス」の2店舗を訪れた。9月5日にオープンした1号店の「ららぽーと立川立飛店」(東京都立川市)と、11月8日にオープンした2号店の「川崎中野島店」(神奈川県川崎市)だ。どちらの店舗も多くの来店客で賑わい、レジには長い行列ができていた。
ワークマンはプロの作業員が使う、機能性が高い作業服などを販売することで知られているが、近年は人気が一般消費者に広まったことから、一般消費者向けの衣料品などを開発、それを専門的に扱うワークマンプラスの出店を9月から始めた。
ららぽーと立川立飛店は、大型商業施設「ららぽーと」に入居している。同店は一般消費者向けだけを扱い、プロ向けは扱わない店舗となる。同商業施設には多数の衣料品店が入居しているが、筆者が見た限り、同店がもっとも賑わっていた。ワークマンといえば男性客が多いイメージがあるが、同店は女性客も多く、およそ半数を占めていた。女性が着ることができるおしゃれな衣料品も充実しているためだろう。一般向けは機能性だけでなく、ファッション性が高いのも特徴となっている。
なお、同店のオープン初日には多くの人が殺到し、30分待ちの行列ができたという。初日の坪当たりの売上高は既存のワークマン店舗の約3倍にもなったとしている。その後の売り上げも好調のようで、平日は50万円以上、祝祭日は100万円以上と、売上予算を大幅に超える勢いが続いたという。
川崎中野島店は、ロードサイド型の店舗だ。品ぞろえは半分が一般消費者向けで、半分はプロの作業員向けとなる。同店も多くの来店客で賑わっていた。訪れた時は男性が多く、全体の8割ほどを占めていた。一般向け売り場のほうが賑わっていたが、プロ向けもなかなかの賑わいを見せていた。一般消費者とおぼしき人が、プロ向け商品を購入するケースが少なからず見受けられたのが印象的だった。一般向けが誘い水となり、プロ向け商品の販売につながっているようだ。
●プロ作業員向け商品がバイクユーザーなどの間で拡散
実は、ワークマンプラスで扱っている一般消費者向け商品は当初、プロの作業員向けに販売していたものだったという。ところが、それらを一般的な用途で使う人が現れるようになり、そのことがSNSなどで拡散、そして人気が出るようになったため、2年半ほど前からそれらの商品を一般消費者向けにブランド化、全国のワークマン800店超で売り出すようになった。それらの売上高は右肩上がりで伸び、2018年3月期は前期から倍増となる60億円を売り上げたという。今期(19年3月期)は前期の2倍生産し、売上高は前期から倍近い115億円を見込んでいる。
ワークマンのプロ向け商品が一般的な用途で使われた例として、屋外で作業する作業員が雨天時に着るための防水防寒ウェアを、バイクユーザーが運転時に着用するようになったことがある。それがSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などで拡散され、バイク用としての評価が高まったことから、バイクユーザー向けの機能を追加したバイク専用ウェアを開発するに至ったという。
たとえば、バイクユーザー向けのレインスーツ「バイカーズ」は、従来品と比べ生地の強度や耐水性を強化したほか、股下の長さを10センチ長くして裾から雨が入るのを抑えるようにしたり、首回りから雨が入るのを防ぐネックガードを付属で付けるなど、バイクユーザー向けの機能を強化した仕様になっている。
このようなバイク用途のほか、釣りや登山、スポーツなどの用途でも使われるケースが目立つようになっていった。そこでワークマンは、レインスーツの「イージス」、アウトドア向けの「フィールドコア」、スポーツ向けの「ファインドアウト」の3ブランドを一般消費者向けに強化していった。どれも売り上げは好調だという。釣り用のブランド「イージスオーシャン」は毎年、販売してからわずか1カ月で完売になるほどの人気があるという。
●圧倒的低価格実現の秘密
これらに人気があるのは、機能性だけが理由ではない。低価格であることも大きな理由となっている。1900円、2900円といった低価格の機能性ウェアも少なくない。同様のメーカー製品の3分の1から半分程度の安さで販売しているのだ。前述のバイカーズも高い機能性に加え、圧倒的な低価格が人気の理由となっている。同様の商品をバイク販売店などで買えば1万円を超えることも少なくないが、バイカーズは5800円という圧倒的な低価格で販売されている。
低価格を実現しているのは、10万着単位で大量生産し、生産コストを低減することができるためだ。それを全国800店超の店舗で販売できることが大きい。仮にワークマンプラスだけでしか販売できないとなると、これだけの大量生産は不可能だが、既存のワークマン店舗でも売れる商品群のため、大量販売が可能となっている。
女性からの人気が高いのも特徴的だ。既存のワークマン店舗の女性客の割合はわずか20%程度にすぎないが、ワークマンプラスららぽーと立川立飛店のオープン時の女性客の割合は45%にも上ったという。ワークマンは、女性作業員向けのおしゃれな作業服の開発も進めており、それで培ったノウハウを一般向けにも応用したことで、そのデザイン性の高さが評価されたかたちだ。ピンクなどのカラフルな色を使ったファッション性の高い機能性ウェアを低価格で取りそろえている。
ワークマンプラスは、女性客の取り込みに成功したことで、一般的に女性客が多いとされる大型商業施設への出店も可能になった。これは大きな収穫といえるだろう。今後は商業施設を中心に出店を進めていく方針だ。現在、3号店の出店が決まっており、埼玉県富士見市にある商業施設「ららぽーと富士見」内に11月22日、「ららぽーと富士見店」を出店する計画だ。また、既存のワークマン店舗にもワークマンプラスをインショップのかたちで展開することも検討しているという。
ワークマンは、低価格・高機能ウェアの潜在市場規模を4000億円と見積もっている。なかなかの規模となる市場ではあるが、目立った競合もおらず、同社としては積極出店により市場を独占したい考えだ。まずは数年で100店程度を展開し、200億円の売り上げを目指すとしている。
ワークマンプラスのみならず、本業のワークマン店舗も好調のため、業績は右肩上がりで伸びている。18年3月期の単独決算は、売上高が前期比7.7%増の560億円、純利益は同9.8%増の78億円だった。8期連続で増収増益を達成している。この8年で売上高は約7割増え、純利益は3倍に増えた。直近決算期末(9月末)の店舗数は826店にもなる。なお8割強がフランチャイズ店となっている。
同社は、近いうちに1000店体制を目指すとしている。まだまだ伸びしろがある既存のワークマン店舗に加え、ワークマンプラスも大きな役割を果たすことになりそうだ。今後の動向に注目したい。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)