信頼揺らぐ中…大手電力が電気代値上げ 「値上げ幅」圧縮も“地域格差”ナゼ?背景にエネルギー源

■「圧縮されてよかった」とホッ 経産省幹部は安堵 経済産業省は4月4日、大手電力7社(北海道、東北、東京、北陸、中国、四国、沖縄電力)の電気代について審査する専門会合を開催した。 議題は、“結果待ち”だった電気代の「値上げ幅」が結局どうなるかだ。規制料金は多くの家庭が契約しているため値上げは家計を直撃する。世の中の注目度も高い。 【写真を見る】信頼揺らぐ中…大手電力が電気代値上げ 「値上げ幅」圧縮も“地域格差”ナゼ?背景にエネルギー源 電気代の値上げは、電力会社が勝手には決められない。経産省に申請し、経産省が審査する決まりになっている。その審査には通常数か月を要する。 すでに大手電力7社は、去年11月から順次、国の認可が必要な規制料金の値上げを申請。ロシアのウクライナ侵攻による燃料価格の高騰や円安などで採算悪化したことが理由だ。今回、イレギュラーだったのは、審査中に“差し戻し”があったこと。計算の元となっていた燃料価格が申請後に下落し、円安が一服したため、国は3月に再算定を求めていた。 再算定の結果、4日までに7社のうち6社が値上げ幅を圧縮した。

■値上げ申請中に、不祥事のオンパレード? もう一つ異例だったのは、値上げ申請中に電力業界の不祥事が次々と明るみに出たことだ。 大手電力では社員らが、子会社の送配電会社などが持つ競合する新電力の顧客情報を不正に「カンニング」。一部は営業活動にも使っていた。また、「お互いのエリアの客には手を出さない」という「カルテル」も公正取引委員会から指摘。まさに不祥事のオンパレード状態だ。 しかも、2つの不祥事の共通点は、電気代を下げる電力自由化を骨抜きにする“反則技”だった点だ。いずれも自由競争を阻害するもので、電気料金の値上げにも繋がりかねないものだった。 不祥事続きの電力会社の値上げを、そのまま認めると、批判の矛先が経産省に向けられる恐れがある。規制料金の審査を担う経産省のある幹部は、国民感情も踏まえ「不祥事もあったなか、再計算で圧縮されてよかった」と安堵していた。

■なぜ値上げ幅は各社バラバラ? ところで、今回値上げの圧縮幅はバラバラとなった。一体ナゼなのか。それは“エネルギー源”に秘密がある。 圧縮幅が最大だったのは、利用者のうち半数以上が規制料金を占める東京電力だ。マイナス11.7ポイント。一般的な家庭のモデル料金は現在の9126円から1万1737円に上がる計算だったが、再算定したところ1万684円となり、1053円圧縮されることに。 東電の圧縮幅が最大となった理由は、「LNG=液化天然ガス」頼みだから。同社は火力発電の比率が77%(2021年度)と沖縄電力に次いで高く、直近3か月はLNG価格が下がったため、値上げ幅を抑えられたのだ。   反対に、値上げ幅を唯一拡大したのが北陸電力。58円の増加。こちらの理由は「石炭」頼みだ。他社より多い41%(2021年度)を石炭に頼っている。石炭価格が上昇傾向にあるため、前回の計算よりも値上がりしてしまった。

電力構成の内訳などによって、各社の値上げ幅には濃淡が出た。  一方で、関西電力、九州電力は現状、値上げを申請していない。2社の共通点は原発の再稼働が進んでいること。今回は燃料費高騰の影響が大きい火力発電への依存度が差を生んだ形だ。

■再エネ導入が進む九州 太陽光は約10倍に増加 実は九州電力にはもう一つ大きな特徴がある。それが再生可能エネルギー比率の高さだ。FIT=固定価格買い取り制度で調達した電気も含めた再生可能エネルギーの比率は約2割と東電などより高い。国内の地熱発電の4割以上を占める。九電は、原発依存の低減や脱炭素のため、再生エネ発電所の拡充を急いできたのだ。また、7年後の2030年までに再エネの発電能力を今の約2倍の500万キロワットに拡大する目標を示している。 ちなみに、地域で見ても九州の電源構成は全国でも特殊だ。原発と再生可能エネルギーの比率が高く、火力発電の割合が全国で最も低い。これは日照条件が良いことを含め、自然環境による要素も大きい。太陽光発電の導入量は10年で約10倍にも増加している。

■「高い」「不安定」を理由に再エネ導入に慎重な日本 「再生可能エネルギーは高い」「再エネ、不安定だから」。中央省庁の中には再生可能エネルギーの導入に慎重な人も多い。そうした中で、九電がいち早く再生可能エネルギー導入を進めてきたことは、電力業界に一石を投じているようにも見える。 エネルギー源によって明暗が分かれた今回の電気代の値上げ幅。ただ、エネルギー価格は常に変動しており、一概に正解・不正解を決めつけることは難しい。

■抜本的な体質改革が求められている 間違いなく言えるのは、相次ぐ不祥事で電力会社の信頼は大きく揺らいでいるということだ。不正閲覧問題について西村経済産業大臣は「極めて遺憾だ」と述べて、業務改善命令も含め厳正に対処する方針を示した。値上げ審査についても厳格に行っていく考えだ。 規制料金の値上げで、電力会社が利用者の負担増を求めるのであれば、国民の納得を得るために旧態依然とした業界の体質を抜本的に改革することが求められている。

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