候補者悩ます票ハラ 有権者が「加害者」に…

学校や職場でのパワハラ、セクハラ…ありとあらゆる場面の「ハラスメント」が社会問題化している昨今。選挙運動の現場も例外ではないようで、候補者や選挙スタッフが、“票”の力をかさに着たハラスメントを受ける「票ハラ」が問題になっている。私たち有権者の側も“加害者”になるというから、注意したいところだ。目下、参院選の真っ最中だが、政治の現場のハラスメントとは果たして、どんなものか。(大渡美咲)

 《政治信条を千字以内に今日中に書いて送ってこい》《ラインの返事が遅い。もう応援しない》

 4月の統一地方選挙前、有権者からこんな連絡を受け取った候補者たちは、悩んでいた。どうしたらいいのか…。悩みを聞いた元衆院議員の井戸正枝さん(53)は話す。

 「有権者の少ない地方選挙では1票でも失うことが大きいから、候補者たちはハラスメントを受けても、『ぞんざいに扱いづらい』と思ってしまう」

 さまざまな人が訪れてくる選挙事務所では、候補者たちが支援者から“上から目線”で“説教”されたり、長時間にわたり持論を聞かされたりするケースもあるという。もちろん、支援者や有権者からすれば、良かれと思ってやっていることだが、井戸さんは「まじめな候補者であればあるほど、意見を聞こうとするから、『票ハラ』に遭いやすい」と話す。

 井戸さん自身も、現職時代や県議会議員時代は、同じような経験に悩んだ日々だった。5人の子育てと議員活動は両立しているつもりだったが、地方議員から「子供はどうしているんだ」と4時間くらい説教されたことも。党本部に相談しても、何もしてくれない。それでも、いわゆる「地盤・看板・カバン」のない“普通の女性”からスタートした政治家として、支持者を大切にしたが、いまでは、こう考える。

 「ハラスメントに遭った場合、『もう支援はしない』と言われることを恐れず対応すべき。そのことで失う1票より、違う1票を掘り起こす覚悟も必要」

 ■女性候補はセクハラも

 「票ハラ」の中でも、とくに新人の若い女性候補は、セクハラの格好のターゲットになりやすいという。卑猥(ひわい)な言葉をかけられたり、体を触られたり…。

 内閣府が平成29年に女性の地方議員約4千人に行った調査によると、3割が「女性として差別されたり、ハラスメントを受けたことがある」と答えた。世界的にも女性議員へのハラスメントや暴力は問題となっており、国会議員が参加する国際組織「列国議会同盟(IPU)」が、欧州各国やロシアなど計45カ国の女性議員81人に聞いたところ、4人に1人が被害に遭ったことがあると回答。約7割が容姿や性差について話題にされたことがあると答えた。40歳未満の女性議員は被害に遭う率が高かった。

 セクハラ対策も含めて、超党派で議員活動のノウハウを共有する地方議員グループ「WOMAN SHIFT」代表の本目(ほんめ)さよ台東区議(37)は「若い女性ということで政策実現のために乗り越えないといけないハードルが高い。女性議員が相談できる場を作っていきたい」と話す。

 過去には、支援者に対する政治家のハラスメントの方が大きな問題になってきた。大阪府知事を務めた故・横山ノック氏は、選挙運動員の女子大生の下着に手を入れるなどしたとして強制わいせつ罪で起訴され、有罪判決が確定している。

 選挙ではないが前衆院議員の豊田真由子氏が秘書を「このハゲーっ」と怒鳴りつけるなどした録音が広まった騒動は記憶に新しい。ある元国会議員秘書は「議員の秘書へのパワハラは珍しくない。マスコミで問題にされていないだけ」と話す。

 政治権力をかさに着る政治家。「一票の力」をかさに着る有権者。ハラスメントの根本的な原因は何なのか。参院選を機会に、改めて考えてみたいところだ。

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