原材料高を背景に、多くの企業が商品価格を上げる「値上げの秋」。総務省の全国消費者物価指数によると、仙台市では全国をやや上回るペースで物価上昇が進行している。市内の商店は資材を倹約したり、消費者は嗜好(しこう)品を控えたり、あの手この手の対抗策でしのぐ。
包装資材を倹約
若林区のスーパー「生鮮館むらぬし」は2月以降、大半の商品を2%程値上げした。10月は牛乳やチーズなど乳製品の価格を10%程度上げる。
社長の村主芳治さん(47)は「経験のない物価高騰。特に店の運営に欠かせない電気やガス、ラップ、トレーの価格上昇が厳しい。コスト増は月300万~400万円になる」と明かす。
仕入れ値は輸入品や輸入原料に頼る商品ほど値上がり幅が大きく、例えば肉類は1月と比べて5%のアップ。商品として売るだけでなく、手作りの弁当や総菜にも多用する食用油は50%も上がった。
ただ、それを売価に転嫁して客離れを招くのは避けたい。肉類は1パック当たりの量を一気に5倍に増やし、トレーやラップの使用量を削減。逆に割安感を出す工夫につなげた。
野菜も小袋に入れるのをやめてばら売りに。鮮魚は切り身や刺し身に加工するのを減らし、そのままショーケースに並べた。包装資材費を抑えるだけでなく、袋詰めや加工を担っていた人の人件費を削って店を守っている。
村主さんは「最近のお客さまは、どこの店で何を買うと得かをよく吟味している。物価高のピンチを、商品を安く売って新規客を取り込むチャンスと前向きに捉えて踏ん張るしかない」と前を向く。
嗜好品は極力我慢
値上げの直撃を食らう消費者は、生活防衛に知恵を絞る。宮城野区の主婦塩川彩さん(34)は最近、トイレットペーパーが100~200円、お気に入りの菓子が30円ほど高くなったのに驚いた。
家計を守る工夫は多岐にわたる。まずは買い物に行く回数自体を減らした。購買欲が刺激され、無駄な買い物をしないためだ。
その上で菓子など嗜好品は極力我慢する。「食事でタンパク質を取るにしても、値上がりを感じるサンマやサケなどは避け、大豆製品で代替して食費を抑えている」と話す。
ファイナンシャルプランナーの上位資格CFP認定者、林正夫さん(60)=仙台市=は「消費者物価上昇の大きな要因である光熱費を削減するため、外出中にテレビなど家電のコンセントを抜いて待機電力を減らすのは有効。家電や車、パソコンなどの耐久消費財の購入を当面先送りするのも対策となる」と指南する。
食料、光熱・水道の上昇続く
総務省が発表した8月の全国消費者物価指数(2020年=100)によると、全調査品目対象の「総合」が仙台市では前年同月比3・8%の上昇。3・0%の全国を上回った。
全国と仙台市の消費者物価指数の推移はグラフ1の通り。ともに昨年は99~100台だったが、仙台は今年2月、全国は3月に101を突破。8月は仙台が3・8%上昇の103・4、全国は3・0%上昇の102・7だった。仙台の伸び率は、消費税増税の影響を除くと1991年以来の上昇幅となった。
10の大分類で見ると「食料」と「光熱・水道」の上昇が響いていることが分かる。「食料」の推移はグラフ2の通りで、前年同月比5・8%上昇の104・3。グラフ3の「光熱・水道」は118・3で、14・8%も上がった。
中分類で上昇率が顕著なのは表の通り。調理食品(前年同月比6・5%上昇)や生鮮魚介(17・7%上昇)、生鮮野菜(10・4%上昇)が高い。電気代(16・8%上昇)、ガス代(25・7%上昇)の値上がりも際立つ。
七十七リサーチ&コンサルティング(仙台市)の田口庸友首席エコノミストは宮城県内事業所の実質賃金が3月以降、前年同月比で下落している点に触れ「賃金の伸びが物価上昇に追い付いていない。輸入品は昨年後半から春先は物流費や人手不足で、4月以降は円安による為替要因で、それぞれ値上がりしている」と指摘。当面じりじりと物価上昇が続くとみている。
[全国消費者物価指数] 小売り段階の食料品や衣料品、電気製品などの「財」と、家賃や通信料、理髪料などの「サービス」の価格の動きを、2020年を基準時として表す指数。総務省が全国の都道府県庁所在地など166市町村と東京都区部で調査し、毎月公表する。調査する全582品目を対象とする「総合」のほか、生鮮食品を除く522品目が対象の「生鮮食品を除く総合」、さらにエネルギーを除いた517品目が対象の「生鮮食品およびエネルギーを除く総合」などの指標がある。