コロナショックの出口すら見えないなか、低年収が当たり前の社会が訪れようとしている。年収200万円台の人が増加、格差拡大する日本のアフターコロナとは?
◆社会人の4~5割が年収200万円台以下に
コロナショックによりリーマンショック以上の経済危機が叫ばれるなか、年収200万円台で暮らすのが当たり前の社会が到来しようとしている。コロナショック以前の日本社会の階層ピラミッドに異変、「アフターコロナでは平均年収300万円台だった正規労働者階級や旧中間階級が、平均年収186万円のアンダークラスへと転落する」と指摘するのは、格差社会を専門とする社会学者の橋本健二氏だ。
「バブル崩壊後の金融危機によるフリーター増加、リーマンショック後の“派遣村”に象徴されるように、経済危機によって『非正規労働者の増加』と『正社員採用の引き締め=就職氷河期』が起こるのは歴史が証明しています。今回のコロナショックはリーマンショックを超えるとも言われていますから、格差拡大は防ぎようがない。
しかも、『団塊世代の引退』といった雇用促進の誘因や景気回復の見込みがなく、『非正規化』や『就職氷河期』が永続化する可能性もある。そうなれば、非正規社員は増加の一途を辿り、全世代において4割以上が年収200万円台、およびそれ以下となる未来が現実化します」
◆デジタル化が進めば、中流層は没落する
「今回のコロナショックでは、飲食店を中心に自営業の脆さも浮き彫りとなった。旧中間階級の小規模経営者や個人事業主からアンダークラスへの転落も増加するはず」
そう橋本氏が指摘する一方で、未来予測を専門とする経営戦略コンサルタントの鈴木貴博氏は産業構造の変化に着目する。
「コロナショック以前から、IT化やマニュアル化によって“マックジョブ”と呼ばれる低賃金・低スキルの将来性のない仕事が増え、一部の高生産性の人材とそれ以外の格差が広がっていました。そこにきて、今回のコロナショックで企業はDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させる大義名分を手に入れた。リモートワークによってあぶり出された“働かないおじさん”など、今後、企業は余剰人員のクビ切りに本格的に乗り出すでしょう」
たとえ大企業であっても、子会社やグループ会社の場合、“年収200万円台”に陥るリスクはあると鈴木氏は続ける。
「海外に比べて日本の正社員の雇用は守られていますが、それでも組織再編や統廃合によるリストラ、非正規に限りなく近い労働条件にするなど、いくらでもやりようはある。さらにAI化により、数年内には全業務の半分以上がマックジョブ、つまり低賃金の単純労働になると言われています」
◆ホワイトカラーの仕事が奪われる
特にAIはデスクワークを得意としているので、ホワイトカラーの仕事の多くが奪われる。
「私の知人にAI秘書を導入しているITコンサルタントがいます。AIが少しずつ彼の行動パターンを学習し、2年近くたったある日、彼がうっかり会議をすっぽかしてしまった。2時間後にそのことに気づき、慌てて関係者に謝罪しようとしたら、すでにAI秘書が各所に謝罪と根回しをして、会議がリスケされていたそうです」
AIがここまで有能になれば、多くの仕事が消滅し、新中間階級のなかでも一握りの優秀な人材の年収はアップするが、それ以外はアンダークラスへ転落する可能性も。もはや年収200万円時代の到来は避けようがない。
だからこそ、「自己責任ではなく社会構造の変化が原因なので、社会保障制度などを利用しながら、したたかに生きるべき」と橋本氏は語り、一方で鈴木氏は「逆に言えば、利便性が向上し、年収200万円でも生きられる時代になるということ」と指摘する。
【橋本健二氏】
社会学者。早稲田大学人間科学学術院教授。膨大なデータを駆使して日本社会の階級構造を浮き彫りに。専門は社会階層論、階級論。著書に『中流崩壊』(朝日新書)など。
【鈴木貴博氏】
経営戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表。未来予測とイノベーション戦略の専門家として、数々のメディアで連載を持つ。著書に『日本経済予言の書』(PHPビジネス新書)など。