「僕はタワマンに住んでアウディに乗ってます」
先日の『アメトーーク』を見ていて、驚いた。四千頭身の後藤拓実が、こんな発言をしたのだ。これまでの芸人のセオリーとは違う。価値観そのものがまるで別物なのだと感じた。
この日のテーマは、『業界 未来への提案』。テレビ業界や芸人界の慣習を見直し、より働きやすい環境を考えていこうというお題で、スタジオには霜降り明星やEXIT兼近など、第7世代芸人が集まった。
冒頭の発言は、EXIT兼近の一言から生まれた。
「なんで芸人は儲かってるのに儲かってないフリをするんですかね? 僕ですら給与明細見て『こんなに!』って驚く月があるんだから、上の人たちはもっともらっている。でも、それを隠したがる」(原文ママではないが、おおよそこんな内容)
たしかに、芸人は自分がお金持ちであることを見せびらかそうとはしない。理由は単純明快。お金の匂いは笑いの邪魔だからだ。芸人は視聴者に妬まれたら笑いはとれない。ちょっと下に見られているぐらいがちょうどいい。だから、儲かってないフリをしてハードルを下げ、自分の戦いやすい環境に持っていく。その観点からすると、23歳の若さでタワーマンションに住み、高級車・アウディに乗っていると公言する後藤は、セオリーとは真逆のトークをしていることになる。
だが、彼らの主張をもう少し掘り下げると、「なるほど」とうなずかされる。兼近は「YouTuberはいい家に住んで大金を使う姿を見せびらかす。だから、子供たちが『YouTuberになりたい!』と思うんですよ。子供たちは『芸人ダセェ』みたいに言ってる。稼げないし、いじめられるし。芸人は夢のある職業だと思ってほしいから、稼いでることを見せなきゃいけない」と言った。そして後藤は、「(SNSやYouTubeで)見せるためにタワマンに住んだ」と続いた。
20代の彼らは、自分たちのプライベートを隠そうともしない。むしろコンテンツにして自分のブランディングに役立てようと考える。後藤は四千頭身のYouTubeチャンネルで自慢のタワマンを公開した。兼近も同じくタワマンの自宅を動画で披露している。この手の動画は「ルームツアー」と呼ばれ、YouTuberたちの定番コンテンツとなっている。さらに、霜降り明星の粗品も、自身のYouTubeでボートレースに100万円を賭ける動画を公開している。ここまで大っぴらに大金を使うのは芸人としては珍しい。
金遣いが派手なYouTuberと言えば、ヒカルやラファエルの名前が真っ先に上がるだろう。彼らの動画にはランボルギーニやマセラッティといった超高級車がよく登場する。もはや100万円を使う程度では驚かない。大金を使い、もはやテレビでもお目にかかれないスケールの動画を撮ってしまう彼らに、視聴者は夢を見る。ヒカルやラファエルはお金を使いまくることで自分の価値を上げている。
トップYouTuberと同世代の第7世代芸人は同じような価値観を持っているのだろう。夢を見せればフォロワーが増え、より高みに登ることができる。それが、学生時代からSNSに触れ、「映え」にこだわり、「盛る」ことで自分をより魅力的に発信することが当たり前の環境で育った、デジタルネイティブ世代の価値観なのだ。儲かってないフリをする方が笑いはとりやすいだろう。しかし、それではちょっとダサい。引き算より足し算。ギラギラ輝くスターっぷりを見せつける。それがいまやテレビを席巻しつつある第7世代芸人やYouTuberたちの、新しい方程式なのかもしれない。