いま、将来への不安から「お金の増やし方」の本が人気です。しかし、そのほとんどは「投資」を勧める本です。たしかに投資でうまくいけば、大金を手にできるかもしれませんが、なかにはリスクが怖くて一歩踏み出せない人もいます。
「お金を増やす方法は投資や倹約だけではありません」と語るのは、お金の知識を活かしてセミナーや記事執筆を手がける、社労士・FPであり、元保険販売員でもある佐藤敦規さんです。「給付金や年金といった便利な仕組みをフル活用することで、リスクをかぎりなく抑え、堅実にお金を増やしていけます」。本稿では佐藤敦規さんの著書『リスクゼロでかしこく得する 地味なお金の増やし方』から、無理なく確実に得するためのヒントを3回にわたって紹介します(1回目の記事はこちら、2回目の記事はこちら)。
「銀行にお金を預けていてもお金は増えません。それなら保険に入りませんか?」。こんな口説き文句で、保険会社の営業から勧誘を受けたことはありませんか?
これは、保険料を積み立てる「貯蓄型」というタイプを前提とした話です。貯蓄型の保険とは、保険期間の満了時に満期保険金を受け取ったり、保険を解約したときに解約返戻金を受け取ったりすることができる商品です。養老保険や終身保険、学資保険、個人年金などが該当します。
「積み立て」と「掛け捨て」の保険の違い
しかし保険には、「掛け捨て型」という種類もあります。「持ち家か賃貸か」の議論が尽きないように、保険においては「積み立てか掛け捨てか」の議論があります。
払った保険金がムダにならず、保障と貯蓄を両立できるため、「貯蓄型」のほうがよさそうに思う人も多いでしょう。ですが、私は断然、掛け捨て型の保険のほうがよいと考えています。
貯蓄型をおすすめしない理由は3つあります。1つめの理由は「得する金額が少ない」という点です。
昭和から平成1桁年代くらいまでは、契約が満期になると払い込んだ保険料よりも多いお金を受け取れたので、銀行に預けておくよりは効果がありました。しかし現在は、返戻率(払い込んだお金に対して戻ってくる金額の割合)は下がっています。払った保険料の10%でも多く戻ってくればよいほうです。
銀行預金の金利などと比べると10%は多いと思うかもしれません。ですが20年、30年という期間が経過すれば物価も上がりお金の価値も下落するため、それを考えれば決して多くはないでしょう。
保障額を維持すると払う保険料が高くなる
2つめの理由は、ある程度の保障額を維持しようとすると、払う保険料が高額になる点です。例えば2000万円の保障をつけようとすると、月々の支払いは5万円を超える場合もあります。
一方、掛け捨てであれば、30歳時点で加入すれば3000万円の保障額を月3000円ほどの保険料で確保できるものもあります。
なお、掛け捨てで3000万円、積み立てで300万円など、両方がセットになっている保険商品もありますが、これはおすすめしません。これは「L字型」といって、年齢が上がるにつれて保険料が高くなり、なかには最終的に受け取れるお金が少なくなるタイプのものもあります。
金融商品はできるだけわかりづらくして、売り手が得する商品を売り込むのが常套手段です。このタイプであれば、他の商品に乗り換えてもよいでしょう。
3つめの理由は、途中で解約した場合、支払った額よりも少ない金額しか戻ってこない点です。
実は、私も以前は貯蓄型の終身保険に加入していて、毎月5万円近くのお金を払っていました。保険と貯蓄の両方を備えた商品は素晴らしいと思い、勤務していた会社の退職金があまり期待できないことから、その代わりにしようと考えていたのです。
しかし会社を辞め、生命保険の営業を始めた途端、収入が激減してしまいました。でも家のローンなどは待ってくれません。家計はどんどんマイナスになっていきました。
貯金もあまりなかったので、保険を解約して戻ってきたお金を生活費に充てることにしたのですが、途中で解約すると、それまで払ったお金よりも低い割合のお金しか戻ってこない低解約返戻金型終身保険でしたので、半分ほどのお金しか戻ってきませんでした。
「多くはない給料からなんとか月5万円を捻出していたのに」と、暗澹たる気持ちになりました。自分が保険商品を売る立場になってようやく、貯蓄型生命保険の欠点に気づいたのです。
商品種別に保険会社を使い分けよう
それなら、どこの会社の商品を選べばよいのか、迷う人は多いでしょう。まず頭に入れておいてもらいたいのは、会社の業績と商品の質は比例しないという事実です。なぜなら、保険は営業力の影響が大きいためです。2020年度の生命保険会社の国内売上高1位は第一生命ですが、商品が他社より優れていたというよりは、営業力があったとも考えられます。
反対に、売上順位が高くなくても、よい商品を出している保険会社はあります。また、死亡保険に強い会社、医療保険に強い会社、貯蓄型の終身保険に強い会社など、商品によってベストな会社は異なります。
1つの会社ですべての保障を揃えようとはせずに、商品種別に保険会社を使い分けたほうがよいでしょう。複数の保険会社の商品を扱っている「代理店」に相談するのも手です。
そして、保険選びに際してもう1つ重要なことは、保険は営業担当者による差がないことです。車を購入する場合は、営業担当者の裁量で値引きできたり、納車日時を早めたりできることもありますが、保険ではそうはいきません。
成績優秀な営業担当者から保険を買いたいと考える人は多いでしょう。ですが、保険については、むしろ売れている営業担当者は大勢の顧客を抱えているため、アフターフォローがあまり期待できないかもしれません。営業成績よりも、誠実に保険の仕組みを説明してくれる担当者から購入するほうがよいといえます。
ここまで説明しても、貯蓄型のほうが解約した際にいくらかでもお金が戻るのだから得するのではと考える人もいるかもしれません。
その考えを否定するわけではありませんが、貯金で備えられないリスクを回避するため、という保険の本質を考えてみてください。1000万円の保障では万が一の際、心もとありません。最低でも2000万円以上の保障が必要になります。
そうなると、貯蓄型であれば月々の保険料は数万円にもなってしまいます。対して掛け捨て型の生命保険は、加入年齢により金額は異なりますが、月3000円で3000万円の保障を確保できるものもあります。
個人事業主やフリーランスには厚生年金がないため、将来の年金づくりとして、貯蓄型の生命保険に加入している人も多い印象があります。私が生命保険の営業をしていたときにも、「年金なんてどうせ受け取れないから払わない」と言う個人事業主が、毎月、貯蓄型の保険に多額のお金を払っていて「もったいないな」と感じました。
保険は毎月の保険料が払えなくなると、受け取れなくなってしまいます。年金には障害年金や遺族年金といった「もしものときの備え」がありますが、保険には働けなくなった際の保障はないので、もったいないのです。
仕事の状況などが変化すると、保険料を払い続けられなくなるリスクもあるため、慎重に検討する必要があるでしょう。
高額療養費があるから医療保険は不要?
ほかにも、保険の営業担当者から「高額療養費があるので民間の医療保険は不要です」という言葉で勧誘されることもあります。高額療養費の制度とは、同月内にかかった医療費が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えたぶんが、あとで払い戻される制度です。
入院や手術により百数十万円程度の医療費がかかるケースもありますが、高額療養費によって多くても十数万程度に抑えられるため、医療保険は不要だという論理です。加入している医療保険を解約させて、貯蓄型の生命保険に加入してもらうためのアプローチです。
高額療養費という言葉を知らなかった人は、貴重な情報を教えてくれるすごい営業マンだなと感動して、つい契約してしまうかもしれません(実は私がそうでした)。
とはいえ、200万円以上の貯金がない人は、医療保険に加入してもよいと考えています。生命保険文化センターの調査で見てみると、過去5年間に入院を経験した人が自己負担した金額は、平均20.8万円でした。50万円以上かかったという人も1割程度います。
貯金が200万円以下の場合は、大きな痛手です。さらには、高額療養費は月単位で計算するため、月をまたいで入院するとそれなりの金額になってしまいます。加えて、差額ベッド代や入院時の食事代、シーツ代などは対象外です。
ただし、高額療養費の制度でまかなえる部分はあるので、多額な費用をかける必要はありません。月額3000〜5000円程度の商品を選べば十分です。
加入の際は、将来、保険料が変わるかどうかにも注意してください。病気のリスクが高まる中年以降に保険料が上がるものもありますが、支払い料金が一生変わらない商品のほうがよいでしょう。変化が大きい世の中で長生きする時代だからこそ、自ら知識を得て、確実な方法を実践していくことをおすすめします。
佐藤 敦規:社会保険労務士