日韓関係好転のカギを握るのは両国の外交姿勢だろうか。それとも国民感情だろうか。いずれにしても、客観的事実を伝える報道機関の役割と責任は重い。朝日新聞OBのジャーナリスト、前川惠司氏が古巣の韓国関連報道に苦言を呈する。
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朝日新聞の報道に決定的に欠けているのは、「誰が日韓関係を壊したのか」だ。周知の通り、朝日新聞は慰安婦の強制連行を“目撃”したとの吉田清治氏の証言(吉田証言)や、植村隆元記者らの手による元慰安婦という韓国人女性らの証言を報じ、1990年代から徹底した慰安婦キャンペーンを始めた。
韓国政府は報道に迷惑顔だったが、金泳三政権からの、「国民感情を納得させ円満に解決するために」との要請で、1993年に日本政府が発表したのが河野談話だ。30余年経た2014年にようやく、朝日新聞は吉田証言を虚偽と認定した。しかし、吉田証言で慰安婦問題の実相を歪めたことの責任感と反省がないことは、この時も、それ以前の検証作業もおざなりで、該当する記者らの社内処分すらしていないことで、明らかだ。
2017年8月11日のコラムでは、国際担当の論説委員がこう書いている。
〈関係者の間では数年前から「日本が韓国化した」とささやかれてきた。かつての韓国に、何もかも「日本が悪い」とする風潮があったように、最近の日本でも単純な韓国観が広がり、それが嫌韓につながっているとの指摘だ〉
論旨がよくわからないことはさておき、単純な韓国観が嫌韓感情を生んだのではない。事実に基づかない執拗な日本叩きだ。そうした自己中心的な韓国社会の実相を、日本社会が朝日新聞以外のメディアの報道で十分に知ったからだ。むしろ複眼化したためだ。
コラムは、高級官僚が安倍首相をほめあげる日本は、金正日を持ち上げる北朝鮮と変わりないとの、「韓国の知日派の重鎮」の言葉で結んでいる。議会制民主主義国家と北朝鮮の独裁体制を同一視する単純さは驚きだ。昨年12月に韓国政府が日韓合意の検証結果を発表した。朝日新聞社説(12月28日)はこう論じている。
〈一方、日本政府の努力も欠かせない。政府間の合意があるといっても、歴史問題をめぐる理解が国民の胸の内に浸透していくには時間がかかる〉〈さらに日本政府にできることを考え、行動する姿勢が両国関係の発展に資する〉
何が日韓摩擦をもたらしたのかとの、自らの報道姿勢への反省なく政府の努力を求めても、説得力はない。しかも、現在の韓国の反日は、国民をまとめる唯一の手段、国民統合の象徴だ。慰安婦像がある日本大使館前の集会に小学生を連れていき、中学生には、「慰安婦問題は解決していない」と明記した教科書を与え、反日を再生産し続ける教育現場。反日に左派も右派もなく、「親日」は存在してはならない不文律だ。いまや反日は、韓国社会の“思想”と化している。
日韓メディアの合同調査で、日本人の嫌韓は折々の動きにつれて好転、反転するが、韓国人の嫌日は一貫して50~80%を維持しているのは、だからだ。そうした国に“できることを考えて行動”するとは具体的に何をすべきなのか。それを明示してこそ論説だ。
朝日新聞の報道や論説の大きな誤りは、日本と韓国の社会や価値観、歴史の違いを直視せず、一方で自分たちの価値観、韓国観を日本社会に押し付けようとする、傲慢な姿勢だ。2011年5月から2013年1月まで主筆を務めた若宮啓文氏(故人)は2005年3月27日のコラムでこう書いた。
〈竹島を日韓の共同管理にできればいいが、韓国が応じるとは思えない。ならば、いっそのこと島を譲ってしまったら、と夢想する〉
竹島を一方的に韓国に譲ればいいという論旨に、事実関係や日本国民の気持ち、国益を尊重しようとする心を私は感じられない。戦前や戦中の朝日新聞が、国民を鼓舞して戦場に送り出し、他方、戦後は連合国総司令部(GHQ)におもねたことを想起させてしまう。
「朝日は日本のリーディングペーパー」という過度の自信と、「左派=進歩」との単純な思い込みが、独善と思い上がりを助長し、商業紙に不可欠なバランス感覚の欠如をもたらしている。最近の韓国の新聞では、朝日新聞の記事を日本社会の一般的反応として紹介するケースが減っている。度が過ぎた結果だ。
【PROFILE】前川惠司●1946年東京生まれ。慶應義塾大学卒業。1971年、朝日新聞入社。週刊朝日、外報部、ソウル特派員、記事審査部次長などを経て、現在はジャーナリストとして活動。著書に『「慰安婦虚報」の真実』(小学館)、『交わらないから面白い日韓の常識』(祥伝社新書)などがある。