1~2月はインフルエンザやノロウイルス流行のピークだ。免疫力が弱くなった高齢者ほど感染しやすいと言われている。とはいえ、感染を防げないかというと、そうではない。では、感染を防ぐためにはどのような取組が必要なのか。
今回、マイナビニュースでは、乳酸菌飲料の摂取によって高い効果を上げているという特別養護老人ホーム【高齢者総合福祉施設】潤生園を訪ねた。
小田原駅から伊豆箱根鉄道大雄山線に乗ること4つ、穴部という無人駅から歩いて数分の小高い丘の上に、その施設は建つ。入所者のほとんどが80代から90代というお年寄りが日々過ごしている、特別養護老人ホーム【高齢者総合福祉施設】潤生園がそれだ。
1978年に設立して以来、ショートステイ(短期入所)、デイサービス(通所介護)、ヘルパー(訪問介護)、訪問入浴、グループホーム、配食などのサービスを提供、さらに24時間定期巡回型訪問介護サービスによる在宅支援にも力を入れている高齢者総合福祉施設である。
さまざまなサービスの中でも、この潤生園は日本で初めて介護食を取り入れたことで知られ、その研究結果は平成3年度日本栄養改善学会賞を受賞するに至っている。
○“よだれ“から生まれた介護食、免疫力を上げるために導入したヤクルト
さて、介護食という概念がなぜ生まれたのだろうか? 早速、当施設事務局長である時田佳代子氏にお話を伺った。
「この施設にお暮らしになっている方はたくさんいらっしゃいますが、ここは医療機関ではないので、体調を崩されても医療は提供できない。この中でできることは限られており、やむなく病院にお送りしていた。体調が戻られたら施設にお戻りになるだろうと思っていた方が病院でお亡くなりになったり、ある時期そういう方がずいぶんいらっしゃった。現場スタッフで“なぜだろう?”と議論したのが、介護食が生まれたきっかけです」
介護の現場でできること、例えば摂食が困難になっている人たちになんとか口から食べたり飲んだりできるようにならないか、ケアの現場の力で何かできるようにならないか、そんな思いからこのプロジェクトは始まった。
そんなある日、開発者である当時の理事長時田純氏は、車いすのご老人が居眠りをしている風景に出くわす。口から床まで切れずに落ちていた“よだれ”を見た時田氏はハッと気づいた。人間にとって一番飲み込みやすいのが“よだれ”ではないのかと。この粘着性があるようなものを食品に転換したものーー最初の開発はミルクプリンだったそうーーを介護食として提供し始めたというわけだ。
何よりもまずおいしいこと、そして見た目も大事にしているという介護食を取り入れてからは、搬送先の病院で亡くなってしまう方もずいぶんと減り、この施設で穏やかに終末を迎える方が多いという。“食は命??このおいしい食事がこの方を支えている”。潤生園のテーマであるこの言葉は、5年以上にわたる介護食開発の苦労から生まれた言葉でもある。
日々介護食の開発を続ける中、2007年から2008年にかけ、インフルエンザやノロウィルスが大流行。当施設の栄養管理士である関田氏は当時を振り返りこう語る。
「こちらの施設でも患う人がかなりいらっしゃったんです。当時施設長だった時田氏から何か免疫力をつけるために食事作りを、ということで、作る方も食べる方も負担にならない何かーー手軽で、しかも安いーーがないか、と調べておりましたら、ヤクルト(乳酸菌飲料)にたどりつきました。実際に飲用を始めると排便回数が増えたり、下剤の使用が減ったり、今まで一週間かかっていた熱が2~3日で下がったり、とデータを取ってみるとその効果は明白でしたね」
○科学的に証明された乳酸菌飲料の効果
ヤクルトをはじめとする乳酸菌飲料が、免疫力を調節する、そんな資料を読んだ関田氏や時田氏が始めた1日に1本ヤクルトやヨーグルトなど乳酸菌飲料を摂取するという試みは、神奈川工科大学との共同研究により、科学的にその効果が証明され、2012年に日本病態栄養学会で発表された。
また順天堂大学大学院医学研究科プロバイオティクス研究講座が行った他の研究でも、介護老人保健施設に入所する高齢者に乳酸菌シロタ株を含む発酵乳を飲用してもらった結果、感染性胃腸炎(ノロウイルスによることを確認)に起因する発熱症状を緩和する効果が確認されている。
さらに同研究では糞便細菌叢の解析で、乳酸菌シロタ株の飲用によって有用菌(ビフィズス菌、乳酸桿菌)の増加と有害菌(大腸菌群)の減少、有機酸の増加が認められており、腸内環境の改善が感染性胃腸炎症状の緩和をもたらす要因の一つであると考えられている。
良薬口に苦しという言葉があるものの、これだけは違う。何よりおいしく、そして手軽に取り入れられる乳酸菌飲料を毎日の生活に取り入れてみてはいかがだろうか?