全国「最低賃金」に異変が…!昨年の岩手県を追い越して「ワースト1位」に陥落してしまった「都道府県の名前」

「目安越え」引き上げ県が27

2024年10月から改定される各都道府県の「最低賃金」(時給)が出そろった。7月末に国の厚生労働省の委員会が全国一律50円の引き上げを求める「目安」をまとめていたが、今年はその目安を上回る引き上げを行う県が27に及ぶ「異変」が起きた。

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地方は若年人口の減少もあり、人手不足が一段と深刻化しており、労働力確保に最低賃金の引き上げはやむを得ないという声が強かった。例年は大幅な賃上げに反対する経営側も受け入れざるを得ない状況が続いている。

今後、最低賃金の大幅引き上げが、パートやアルバイトなど非正規のみならず、正規の従業員の賃上げに拍車をかければ、岸田文雄首相が就任以来掲げてきた「物価上昇を上回る賃上げ」につながってくる可能性もあり、大いに注目される。

都道府県でトップは東京都の1163円だった。国の目安通り前年比50円の引き上げとなった。2位の神奈川県が1162円、3位の大阪が1114円といずれも50円引き上げた。時給1000円以上となった都道府県は15になり、従来の8から大幅に増えた。全国加重平均は1055円となり51円増加、上昇率は5.1%となった。

一方で、「全国最低」の最低賃金には「異変」が起きた。昨年の改定では岩手県が893円で全国最低だったが、今年は岩手県は目安を9円も上回る59円の引き上げを決定。愛媛県と並んで全国2番目に大きい引き上げ率となった。何としても「全国最低」の汚名は返上したいという意思が働き、最低賃金が低い県では毎年、他県を意識した引き上げが行われる。全国最低は秋田県になった。目安より4円高く引き上げて951円としたものの、他県に追い越された。

徳島県が危機感を抱く理由

そんな中、全国で最も引き上げ幅が大きかったのは徳島県で、目安を34円も上回る84円の引き上げを決めた。最低賃金決定では異例中の異例の引き上げ幅だ。従来、徳島県は沖縄県と並んで全国で下から2番目の896円だった。

これについて後藤田正純知事は若者の人材流出につながるとして大幅な引き上げを求めていた。引き上げの答申を受けて後藤田知事は「相乗効果としてどんどん良い人が集まり、どんどん労働者のやる気が高まり、そして生産性が高まることで良い会社が増えていく」と歓迎、異議申し立てなどがなければ11月1日から適用される。

徳島県が危機感を持つように、最低賃金が隣県に比べて低いことで、人材が他県に移ってしまうという問題が、全国各地で起きている。特に県境を挟んだ移動が簡単な場所では、最低賃金の違いで労働移動が起きる傾向がある。

例えば、東京都の最低賃金は今回の改定で1163円になるが、県境を接する埼玉県は1078円、千葉県は1076円と85円から88円も低い。これが学生バイトや主婦のパートなどの時給にも表れていて、県境を越えて有利な東京都で働く学生なども少なくない。地方の場合、最低賃金が低いことが正規社員の給与も低く留めているという批判も根強くある。

外国人労働者が日本に見向きもしない時代

もうひとつ問題なのは、外国人労働者の給与。最低賃金に近い水準で働いている外国人が少なくないため、最低賃金を引き上げないと働き手が集まらないという問題が生じている。特にここ数年の円安によって、外貨建ての換算した場合の最低賃金はむしろ下落しており、外国人に敬遠される一因になっている。

例えば外国人労働力に依存している首都圏向けの弁当や惣菜など食品工場は、東京に比べて最低賃金が低いこともあり、埼玉県に多いが、埼玉県の2020年10月の最低賃金は928円で、この時のドル円為替相場(仲値)105円55銭で、ドル換算すると8.79ドル。これが2023年10月には最低賃金は1028円まで引き上げられたが、1ドル=149円58銭で換算すると6.87ドルまで下がっていた。

今回1078円に引き上げられ、しかも為替がやや円高に戻しているとはいえ、ドル建ての最低賃金は7.44ドル程度だ。4年で円建て最低賃金は16%も引き上げられたのに、ドル建てでは逆に15%減っているわけで、外国人労働者から見た日本の賃金は猛烈に安くなっていることが分かる。

しかも、欧米はもとより、東南アジア諸国の物価上昇によって、それぞれの国の最低賃金も大幅に上昇している。最低賃金の引き上げペースを大きくしないと、このままでは外国人労働者が日本に見向きもしない時代がやって来ないとも限らない。一方で、日本人の労働人口の減少はこれからが本番で、2030年代に入ると人手不足は深刻度合いを増すのは明らかな状況になっている。

地方で、最低賃金の「引き上げ競争」とも言える状況が起き始めたのは、明らかに人手不足が深刻化しているからに他ならない。政府は最低賃金の全国加重平均を1500円にするという目標を掲げているが、達成時期は当初、「2030年代半ば」とした。今年の骨太の方針では、それを前倒しするとしたが、目標年限を明示していない。仮に今年と同じ5%ずつ引き上げたとしても8年はかかる計算だ。

次の首相がどんな経済政策、賃金政策を志向するかわからないが、思い切って最低賃金を底上げしていけば、全体の賃上げにもつながり、岸田首相が実現できなかった「経済好循環」を達成できるかもしれない。

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