和歌山県水産試験場(串本町)は12日、人工的に産卵させて育てた「スマ」(サバ科)を全国で初めて出荷すると発表した。東京や大阪の百貨店などに合計約 40匹を出荷する。スマは「全身トロ」といわれるほど美味とされるが、日本ではほとんど漁獲されないため「幻の魚」と呼ばれる。県は「高級マグロに匹敵す る高級魚として売り込みたい」としている。
養殖業の低迷を受け、試験場が東京海洋大学と串本町の養殖業者「丸東」と協力して2012年度から研究を進めてきた。13年度には日本で初めて養殖のための種苗の量産技術を開発した。共食いなどが課題だったが、餌を調整することで抑制した。
14年度には人工種苗の約450匹が越冬に成功。昨年11月には約100匹に減ったが、うち約40匹が生存し出荷サイズの45センチ(1・5キロ)になった。
出荷は16日。出荷先は日本橋三越本店内の「吉川水産」(東京)、阪急うめだ本店の「まぐろ寺本」(大阪)と、和歌山市の和歌山マリーナシティ黒潮市場。高級マグロに匹敵する価格帯で取引されるという。
試験場などは、今後はコスト削減や生存率の向上などを目指して研究を進める。次の出荷は来季の冬で、このときに完全養殖を目指す。将来的には水温を調整するなどして、通年出荷できるようにしたいという。
仁坂吉伸知事は「魚が少なくなってきているので、これから大量に捕って、出荷する漁業は難しくなる。スマの養殖は、他県でも研究が進んでいて今後盛んになると思う。和歌山はトップランナーとして、県内の水産業者を組織化してやっていきたい」と話した。
県農林水産総務課研究推進室の岩本和也室長は「マグロと競合できる高級魚に位置付けて販売したい。養殖技術はまだ開発途上なので、量は確保できない。県内で盛んなマダイ養殖のいけすがスマに活用できるので、今後養殖業者に取り組んでもらいたい」と話した。
◆スマ
通称「ヤイト」「ヤイトガツオ」と呼ばれる小型のマグロ類。身はピンク色で美味。胸びれ下腹部におきゅうの痕のような黒く小さい点が数個あるのが特徴。 体の背側にやや斜めの短い線が並ぶ。紀南地方では釣りや漁で捕獲されるがその数は少なく、ほとんど市場に出回らない。食べ方は刺し身が中心。全長 40~50センチ、重さ1~2キロほどだが、南方では1メートルに達する個体もある。