2012年3月16日、東京・銀座にユニクロ世界最大の旗艦店「ユニクロ銀座店」がオープンした。中央通り沿いに新設されたギンザコマツ東館の1~12階に入居し、売り場面積は約4950平米。各フロアはカテゴリーごとに構成され、メンズ、ウィメンズからキッズ&ベビー、UT(Tシャツ)まで、ユニクロの全ラインアップをそろえる。年間の売り上げは1店舗当たりで過去最高の100億円をめざす。
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同社は2006年の米国ニューヨークソーホー店を皮切りに、5年間で世界7都市に8つの「グローバル旗艦店」を出店。2011年10月にはニューヨークの超一等地・5番街に約4620平米の旗艦店をオープンし、世界での知名度を高めた。国内では10年10月に大阪・心斎橋に旗艦店をオープンしたが、今回は日本一のファッションストリートに満を持してのオープンとなる。
オープンにあたって、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は「今後10年間で13億人の中産階級がアジア中心に誕生する。欧米中心の消費社会からアジア中心の消費社会に変わり、今の40~50倍のグローバル経済が新たに出現する。日本は今閉塞状態にあるが、日本がアジアの中の一員であり、世界の中の一員であると考えたとき、可能性の大きさにワクワクする。日本はもちろん世界で圧倒的なナンバーワンになるために、世界最大で最新のユニクロ銀座店を作った」と抱負を語った。
スタッフ520名のうち100名は外国人。日本語はもちろん英語、中国語、韓国語、フランス語、スペイン語の6カ国語に対応する計15名のネイティブスピーカーが待機し、外国人観光客へのサービスを強化する。1階のカウンターでは6名のカスタマーコンシェルジュが常駐、店内案内やエリア情報の提供など顧客の要望に応えていく。
同店ではユニクロと人気ファッションブランド「アンダーカバー」のコラボレーションライン「UU(ユーユー)」がワンフロアで展開されるほか、原宿で展開していたTシャツ専門店「UTストア」も銀座店に移転。プロテニスプレーヤー・錦織 圭選手着用モデル(4月2日発売)は銀座店のみの販売だ。
ユニクロから道を隔てて向かいのギンザコマツ西館には、人気ブランド「コム デ ギャルソン」のデザイナー・川久保 玲氏がディレクションするコンセプトストア「ドーバー ストリート マーケット ギンザ・コム デ ギャルソン」も出店。日本発・世界的ブランドの同時オープンで大きな話題を集めそうだ。
上層階に注目度高い売り場を設け、シャワー効果狙う
ユニクロ銀座店は、旧店舗(2012年3月30日にジーユーとしてオープン)の2倍以上の広さだが、ワンフロアは決して広くない。125坪の売り場が12層になった店舗で、多層階の展開はユニクロとしては初の試み。上層階に顧客を誘導し、シャワー効果で全館の回遊性を高める工夫がなされている。
まず「ウエルカムゲート」と名付けられた1階フロアは、エントランスをくぐると2層の吹き抜け空間に21体の回転マネキンを陳列した巨大なウィンドウディスプレイが現れる。ここに陳列されているのはシーズンいち押しのスタイリング。12階「ユニクロ ギンザ スペシャル」フロアと連動し、月1回ペースで商品を入れ替える。壁面にはフロアごとのいち押し商品とスタイリングを紹介するプレゼンテーションコーナーも設置した。通りに面していて高い売り上げが見込める1階フロアをあえてショールーム的な位置づけとし、上層階に誘導する戦略だ。
2~3階がメンズ&ウィメンズの「シーズンセレクション」フロア。その時々のお得な目玉商品を集積する売り場で、オープン時は990円のジーンズや1490円のスウェットフルジップパーカなどを販売する。
ゆとりのあるフロアで回遊性を高める
4階から上がカテゴリー別フロアとなる。4階「ウィメンズ スマートカジュアル」、5階「ウィメンズ カジュアル」、6階「ウィメンズ インナー」とウイメンズフロアが続き、7階にはユニクロ初のキッズ&ベビー専門フロア。メンズフロアは8階「メンズ ビジネスカジュアル&インナー」、9階「メンズ カジュアル」と上層階に配置。そして10階がユニクロとアンダーカバーのコラボブランド「UU」専門フロア、11階がUTストア、12階が「ユニクロ ギンザ スペシャル」となっている。
今回の銀座店は1階~12階と多層階であるのに加え、ワンフロアが狭い。そのため、それぞれのフロアにはスペースにゆとりを持たせ、回遊性を高めている。「買い物客の行動習慣に合わせて、各フロアでレイアウトを変更している」(同社)という。驚きは少ないが、居心地の良さが一番の特徴といえるだろう。
「UU」とキッズ・ベビーフロアで若いファミリー狙う
新しい銀座店の一番の目玉が、海外でも人気のブランド「アンダーカバー」とのコラボレーションライン「 UU 」だ。まず銀座店で先行発売し、そのあとに国内32店舗と海外の11の国と地域で順次発売する。
UUは「家族」をキーワードに、ベビー、キッズ、ウィメンズ、メンズのフルラインアップがそろう。通常のユニクロ商品にはない、アンダーカバーらしい少しひねりを加えたデザインが特徴。家族が同じコンセプトで楽しめる「東京発の新しい家族服」を提案する。お出かけ服からルームウェアまで、バリエーションも豊富。今シーズンはメンズ43型、ウィメンズ34型、キッズ23型、ベビー5型を用意した。
デザイナーの高橋盾氏は自身のブログで「アンダーカバーのファンだけでなく、今までアンダーカバーを知らなかった人たちにも僕のクリエーションが届けられる。より多くの人に僕のデザインした服を着てもらえるから、このプロジェクトをやろうと決めた。誰もが着れて、しかも低価格の商品というユニクロの基本理念に対して、僕の役割は“アンダーカバー流スパイスを加えること”。このスパイスのさじ加減こそが、このプロジェクトのすべてといっていい。生地や色の選択、コストとデザインの関係性。すべてのバランスをどのエッジで成り立たせるのか。実にむずかしい作業だった」と語っている。
2児の父親でもある高橋氏が妻のリコ氏とデザインし、特に力を入れたというのがベビー・キッズライン。価格は790~4990円と通常のユニクロ商品よりは多少高めだが、アンダーカバーらしいディテールが施された商品がこの価格で手に入るのは驚きだ。
ブランドの世界観を表現した売り場も必見。10階はワンフロアすべてがUUの売り場となっており、中央には子供部屋やキッチン、リビングをイメージした空間を設け、UUの世界を体感できるようになっている。
また7階のキッズ&ベビー売り場では、小さな子供に配慮した売り場づくりに注目したい。メインディスプレイには、UTでコラボレーションを行ったタカラトミーの「トミカ(ミニカー)」と「プラレール(鉄道模型)」を展示。子供がケガしないように、床にはふかふかのカーペットを敷き詰め、角に丸味を持たせた木製什器を導入している。授乳室のあるベビールームを完備したほか、保育士、幼稚園教諭など専門資格を有するスタッフやベビーシッター経験者が常駐し、買い物をサポートする(保育サービスは行っていない)。
キッズ・ベビー専用フロアを設けた理由は、旧銀座店ではベビーカーで来店する子連れ客が多く、キッズ・ベビー向け商品のニーズが高かったことも大きいという。
最上階の企画編集型売り場ではイベントも開催
従来の単品アイテム訴求から、着こなしやコンセプト訴求が重視されたユニクロ銀座店。編集型の売り場や広い通路、店頭在庫を抑えたゆとりのある陳列など、ゆったりと買い物できる空間演出を行い、客単価を上げる仕掛けが随所に見られる。
その代表が12階の「ユニクロ ギンザ スペシャル」と名付けたフロアだ。毎月1回程度のペースで企画編集型の売り場を展開する。その時々の最新のコーディネート、最旬の商品など多彩な情報を発信していく。トークショーやUTでコラボしたキャラクターを起用したイベントなども企画していくという。オープン日の3月16日から4月1日までは、「non-no」「MORE」「BAILA」など集英社のファッション誌9誌と組み、誌上で紹介したコーディネートをそのまま提案。各誌編集長からのコメントもPOPで伝え、マネキン一体ごと購入できる売り場編集を行っている。
11階には原宿にあった「UTストア」を移転オープン。壁面のメタル什器と中央のアクリルラックを使い、約100アイテムのグラフィックTシャツを展開。企業や人気アニメとのコラボTシャツ、英国ブランド「ローラアシュレイ」のプリントTシャツ、ハローキティ、ディズニーなどキャラクターTシャツなど、豊富なラインアップがずらりと並ぶ。
全フロアを回って感じたのは、買い物を楽しめる売り場になっていること。ワンフロアが狭いという弱点を逆手にとり、カテゴリーごとにコンセプトや打ち出し方を明確にしたことが、結果的に見やすく買いやすい売り場につながったように思う。象徴的なのが、キッズ&ベビー売り場やUTストア。加えてUU、12階のイベントフロアなど目玉となる売り場の完成度の高さも全館に波及している。
ただ、ユニクロ初の試みである多層階の店舗が効率を落とさずにどこまで売り上げを伸ばせるかが気になるところ。そのためには、上層階へと誘導できる魅力的なコンテンツを提供し続けられるかどうかがポイントになるだろう。
(文・写真/橋長 初代)