入居倍率30倍なのに…6親等まで認めていた例も
入居倍率が上昇し、入居が難しくなっている公営住宅で、入居の権利を親から子へ引き継がせないように運用を見直す自治体が増えている。産経新聞社の調べでは、運用を見直したのは、47都道府県15政令指定都市のうち、21自治体にのぼる(3月末時点)。「真に住宅に困窮する人に支給するため」と自治体側は説明するが、誰が真に困窮する人かを調べる方法は確立されていない。(村島有紀)
2月から3月にかけ、62自治体の公営住宅担当者に電話で調査した。
東京都は平成14年度に、これまで3親等まで認めていた入居承継基準(入居権の引き継ぎ)を1親等に改正。本人死亡後、配偶者または子供が、入居収入基準(月額20万円)を超える場合は承継できなくした。さらに今年8月からは子供への承継を認めず、配偶者だけに限る。
同様の動きは全国に広がる。さいたま市は条例を改正して4月から、鳥取県は10月から、これまで同居6親等まで認めていた権利の承継を原則配偶者などに限る。大阪府も、新たな入居者は今年5月から、現在の居住者は来年4月から、配偶者や同居していた6親等以内の母子世帯などに限る。3親等まで認めていた宮城県と神奈川県も4月から原則、配偶者とした。
各自治体が権利承継を厳しくする背景には、国土交通省の指導がある。同省は17年12月に「公営住宅の適正管理について」というガイドラインを出し、「承継が認められるのは原則として同居している配偶者、高齢者、障害者など特に居住の安定を図る必要がある者」とした。公営住宅の新規着工がなくなるなか、既存のストックをいかに有効利用するかという観点からだ。
住宅整備課の東真生・公営住宅管理対策官は「条例や規則などで、地域事情に応じた形でやっていただけたらいい。親が亡くなったから、当然に子供に引き継ぐのではなく、もっと困っている住宅弱者の人のことを考えてほしい」と話す。
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では、従来通り、同居親族への継承を認めている自治体は、どのような政策判断をしているのだろうか。
「応募倍率が1倍を切っているため、ガイドラインには従わない」(岐阜県)とする自治体もあるが、「親を亡くして悲しんでいる子供に出ていけという土壌はない」(名古屋市、応募倍率22倍)など、現在の居住者の安定を重視する立場だ。また、「認めないと結局、不正入居になる」(大阪市、同30倍)、「トラブルになる」(神戸市、同20~25倍)などの慎重な対応も目立つ。
実際、昨年4月から運用を見直した岡山県では、明け渡しに至らず不正入居の状態となっている住宅がある。県担当者は「強制執行手続きには何十万円もかかる。終の棲家(すみか)ではないことを粘り強く説得したい」としており、運用見直し後の難しさを吐露する。
■「真の困窮者」判定は困難
自治体の公営住宅担当者が頭を悩ますのは「真の住宅困窮者は誰か」という点だ。国交省のガイドラインは、現在の住居の住環境(トイレ、浴室の有無など)、家賃負担率などを点数化して、点数の多い人ほど入居できやすくするポイント方式の活用や、入居選考時に預金や有価証券、不動産などの資産を自己申告させて考慮するよう求める。
しかし、ポイント方式については「みんな困っている人ばかり。神様ではないので、決められない」「事務が煩雑になる」など、導入しているのは少数派だ。
資産の確認にいたっては「現実的に資産を見る手段がなく、難しい」「正直者がバカを見るような制度は採用できない」など、否定的は意見が多く、検討すらしていない自治体が多い。
それでも、47都道府県と15政令指定都市が加盟する全国公営住宅等推進協議会(事務局・東京都住宅政策推進部)は昨年8月、「資産の考慮などを公営住宅入居時の資格として、明確に位置づける」など、法的位置づけを国に要望。東京都も昨年11月、独自に同様の要望書を出した。
生活保護のように、1世帯1世帯の資産を、確実に確認するには膨大な事務量が必要だ。「国が個人の資産をすべて把握できるシステムを新たに作らない限り、法的に位置づけられても、現在のシステムでは無理」(大阪府)という声もあり、国が目指す「公平で有効な住宅運営」の先行きは見えない。
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