六本木で爆売れ!福島屋「おむすび」の秘密

六本木のアークヒルズサウスタワー地下1階に、「おむすび」が飛ぶように売れる店がある。並べるそばからすぐ売り切れるので、スタッフは朝から晩までひた すら握り続けるという。オフィス街なのでランチ需要があるとはいえ、コメ離れと言われ久しい日本の大都会で、なぜおむすびが爆売れしているのだろうか。

しかも、販売しているのは、意外なことに弁当屋でもおむすび専門店でもない。とあるローカルスーパーなのである。その名も、「福島屋」。東京都羽村市に本店を構える地域密着型スーパーだ。

■熱狂的ファンもつくローカルスーパー

年 商約52億円、創業以来44年以上黒字続きという実績もすばらしいが、利用者からの愛されぶりもスゴイ。実は、羽村市で暮らす筆者の友人が常連なのだが、 お買い物トークになると、「福島屋はすべてのものが美味しくて、店内にいるだけでも楽しいし、ちょっと高いけどついつい買っちゃうの!」と、いつも興奮ぎ みに話してくれる。中には彼女のような地元在住者に限らず、遠方から足を運ぶ熱狂的ファンもいるそうだ。

客を虜にしているのは、「安心安全」や「美味しさ」にこだわった品揃えだ。無施肥無農薬で育てた自然栽培の野菜や果物を始め、全国を歩き周り見つけた絶品や、生産者と作ったオリジナル商品など、大手スーパーでは見かけないモノがズラリと並んでいる。

清 潔な店内に気遣い満点の接客、独自の売り場改善法「グラフィック・ワークショップ」、「安売りしない、チラシはまかない」といった販促ポリシー―近頃は各 方面からこうした経営手法も注目されており、全国から視察者が訪れ、スーパー再建や地域おこしの依頼などにも応えている。

そんな中、2014年1月に出店したのが、六本木店だ。冒頭でも述べたように、ここでは店内のキッチンで握られる「おむすび」が大人気だという。手 作りであることもポイントが高いと思うが、支持されるワケは、「素材一つひとつの良さでは」と製造部門責任者・取締役の田中和彦さんは説明する。

「お惣菜は有料試食」というのが、福島屋の考えだ。どういうことかというと、全店において惣菜は、店頭で販売しているこだわりの食品や調味料を使い、店内のキッチンで調理しているのだ。おむすびも例外ではなく、選び抜かれた素材で作られている。

具材の人気ナンバーワンは?

清潔感溢れるガラス張りのオープンキッチン。寿司、惣菜、ベーカリーはその場で調理して提供。調味料は何を使っているかなどPOP表示も親切だ

まずは、コメ。福島屋は、20年以上も前から東北の生産者から直接コメを仕入れているのだが、おむすびもこの提携農家のコメを使う。おむすびに向く粘度かつ旬のコメを日々採用しているという。海苔も有明産のオリジナル商品、塩はほんのり甘味のある内蒙古の「天外天塩」だ。

ナンバーワン人気の具材は、「山漬け鮭」。塩鮭を作るには、剣山のような針で鮭の身に塩水を注入する加工法「インジェクション」が一般的らしいが、 ここでは「山漬け」という伝統技法で仕込んだ塩鮭を使っているという。秋鮭に大量の塩を施し、山のように積み上げ漬け込むことから「山漬け」と呼ばれる が、途中で上下を入れ替えるなど手間も時間もかかる技法なので、今は広く流通していない。

支持されるワケは、「素材一つひとつの良さでは」と製造部門責任者・取締役の田中和彦さんは説明する

だが、その分、「一般流通の鮭と比べ水っぽさがなく、中辛口で熟成したうま味がある」と田中さんは話す。確かに、程よく締まった身の食感と塩辛さの中に広がる旨みがコメに合う。3歳の息子もこれがいちばん気に入ったらしく、夢中でペロリと一個たいらげてしまった。

2番目に人気の具材は、「梅干し」だ。使われているのは、和歌山県産の「樹上完熟 南高梅」というオリジナルの梅。青いうちに収穫し出荷される通 常の梅に比べ、これは自然落下した完熟梅なので香りが高く柔らかい。酸味も強く塩のみで漬けているので酸っぱいが、この昔ながらのシンプルな味わいがたま らない。

他、無着色・無添加・無漂白のたらこや、昆布、藻塩だけで握ったおむすびなども揃えている。

握りたて、しかも高コスパ!

「並べた途端に売り切れる。つまり、店頭にある時はいつも握りたてだということ。そこもよいのでは」と、田中さんは笑う。ちなみに2006年にオー プンしたオフィス街の「リラック大崎店」もおむすびが人気で1日300個売れるそうだが、六本木店は1日500~600個も売れる。

聞いただけで腱鞘炎になりそうだが、驚くことに作るのは1人。交代はするが、1人の担当者が4~5時間ひたすら握り続けるそうだ。コメがつぶれないよう、「担当者には4~5回握って三角形を作るよう指導している」(田中さん)という。

コスパの良さも大きなポイントだ。一個約130gで143円(税抜)。コンビニのおむすびが約70~80gで100円強なので、それと比べると大きめで価格も良心的だろう。しかも素材厳選の握りたてとなれば、連日おにぎりが爆売れするのも納得だ。

試行錯誤の末、スタンスを変えず勝負

手作りのおむすびを提供し始めたのは20年以上も前だ。創業者の福島徹会長(当時社長)が、「コンビニのおにぎりを子どもの遠足や運動会に持たせる よりも、お母さんが手で握ったほうが愛情を感じてもらえる」と思ったことがきっかけだという。この頃からほかの惣菜も自家製にこだわるようになっていった そうで、今では、店頭に並ぶ惣菜の80%がオリジナルブランドとなっている。

全店で大人気の「五ノ神おはぎ」、「薪石窯クッキー」「自然栽培 切干大根」。素朴な味わいが魅力だ

だが、基本的に奇をてらったものはない。たとえばオリジナル商品の中でよく売れるのが、火・木・土限定の「五ノ神おはぎ」(六本木店は2個入、343円税抜)。

昼過ぎには売り切れ、お彼岸には全店で1トン作るという定番ヒット商品だ。六本木店でもおむすびの次に人気があるが、とにかくあんこが美味。北海道の朱毬小豆、精製度の低い粗糖、塩のみで仕上げており、控えめな甘さが後をひく。

「薪石窯クッキー」(350g入、2800円税抜)も熱烈なリピーターが多い。原料にこだわっているのはもちろん、羽村にある石窯で焼くので生産量が限られており、即売り切れてしまう幻のクッキーだ。香ばしくカリッとした歯ごたえがクセになる。

「お母さんが作るものの延長線上」と田中さんも表現するように、正直に言ってどれも最先端のスタイリッシュな雰囲気はない。一見なんの変哲もない が、安心な素材で、懐かしやほっとした安らぎを感じる美味しさが福島屋の特徴なのだ。このように昔から素朴な商品ばかりなので、森ビルの声がけから実現し た六本木進出も、何をウリにすべきか当初は悩んだという。

六本木の華やかなイメージを意識して洋風な惣菜もいろいろと試作した。だが、「結局、スタンスを変えずに行こうということになった」(田中さん)。 結果、看板商品として打ち出したおむすびを始め、ありのままの魅力はこの地でも受け入れられた。オープンから2年が過ぎた今、客足が絶えない人気店として 定着している。

ブレない理念と共存共栄の精神

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コメコーナー。六本木店では、単身者やあまりお米を食べない人に最適な二合サイズも取り扱っている。

「福島会長は、流行にのることはなく、『美味しいもの』『きちんとした商品』というところから絶対にはずれない」と、田中さんは話す。大量生産・大 量消費に疲れ、本当に良いモノや確かなモノを求める人が増えている昨今。特に食に関しては偽装問題などが後を絶たず、安心安全な食品や素材を選びたいと願 う人は多いため、正しい食を追求し続ける福島屋の姿勢は共感を集めるのだろう。

そしてもうひとつ、福島屋が支持されるワケは、「共存共栄の精神」にあると感じる。「消費者、生産者、小売り・流通業者が三位一体、三方よしでそれぞれに利益が生まれること」を大切にしているのだ。

たとえば、主婦の感性を生かそうと地元主婦に声をかけて雇ったり、食の知識を伝授する講座を開いたりと、消費者とのコミュニケーションを重視するの はもちろん、生産者との連携にも力を入れている。直接取引をし、適正価格での販売に努める。200以上にものぼるオリジナル商品も、生産者との対話から開 発したものばかりだ。たとえば、コアなファンが多い「自然栽培 切干大根」(50g、238円税抜)。形が悪いなど流通させることができず余ってしまう大 根がもったいないということから、福島屋が設備投資をして商品化した。

過去には月に1度、雑誌「商業界」主宰で「福島塾」という勉強会を実施していたこともある。地方スーパーや食品メーカーを始め、生産者や流通業者な ど30社と情報交換を行っていた。その他、依頼があればスーパー再建なども担っており、同業者や流通関係者とも、競争ではなく「共存共栄の精神」で関係構 築を図っているのだ。

こうした姿勢は、スーパーのひとつのあり方にとどまらず、社会のあり方を提議しているようでもある。激変し、縮小化していくこの国で、「ひとり勝ち や自分ひとりが幸せになること」に疑問を感じている人は多い。よい商品に出会えるだけでなく、こうした課題解決に対する知恵や希望のようなものもどこかで 感じるからこそ、多くの人が福島屋に足しげく通ってしまうのではないだろうか。

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