超金利を背景に、「安定」の象徴ともいえた銀行が揺らいでいる。それは地域銀行も例外ではない。地銀に迫る危機と現状を経済ジャーナリスト・森岡英樹氏がレポートする。
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「A銀さんにご就職されたんだってね。いや~立派になられて」
昨年末、地元に帰省して還暦祝いを兼ねた同窓会に出席した男性は、長男がA銀行に就職したというかつての級友にこう声をかけた。だが、級友から返ってきた言葉は意外なものだった。
「A銀も大変らしい。息子も苦労するんじゃないかと心配しているんだ」
A銀行は、全国の地方銀行の中でも勝ち組の筆頭に挙げられる。その銀行でさえ「苦しい」というのは、どういうことか。
これまで「地銀は各県のお殿様」というのが通り相場だった。地元自治体の指定金融機関を務め、安定した基盤に支えられた経営は盤石。地元の就職ランキングでは常に、県庁、電力会社とともに「御三家」の一角を占めてきた。しかし、いまやそれも昔話になろうとしている。
「地銀の採用面接が練習台にされているようだ」。地銀の人事担当者の間ではこんな会話が交わされている。今年4月入行組の採用は波乱含みだった。空前の売り手市場で大量の内定辞退者が出たのだ。「全体の2割もの辞退者が出たところもあったようだ。学生は社会の変化に敏感だ。地銀の将来を不安視している」(大手地銀幹部)
超低金利が継続する中、地銀の体力は確実に低下している。「メガバンクが打ち出した人員の大幅な削減は他人事ではない。いずれリストラに踏み込まざるを得ない」(同幹部)というのが共通の認識だ。
金融庁の危機意識も強烈だ。異例の就任3年目に突入した森信親長官。続投が決まった直後の昨年7月中旬、全国の地銀頭取たちを前に言い放った。
「頭取の方々の間でも、このままではまずいとの認識は共有されているようだが、それに対する解決策は確立されていないように見受けられる。対策の中には、引き続き人口の多い地域に出て行き、低金利攻勢により量的拡大を図るというものも存在しているが、他の銀行よりコスト競争力が著しく高い銀行は別として、金融機関の本質的な価値や競争力の向上に結びつくとは思えないことをなぜ続けようとするのか、正直疑問に思っている」
懸念はすでに現実となった。貸し出しや手数料といった顧客向けサービスで利益率、利益率増減幅ともマイナスに転落している地域銀行が数多く存在する。「地銀の本業である貸し出しは、残高が増えたにもかかわらず利息収入は減少の一途をたどっている」(金融庁関係者)というのが実情だ。
そうした苦境を象徴しているのが、「カーテンコール貸し出し」と呼ばれる融資の急増だ。事業の継続を断念した企業に対し、廃業・解散のための資金を融資するもので、劇の最後に出演者が観客に挨拶して幕が閉じられるカーテンコールになぞらえてネーミングされた。人口減少に伴って中小企業を中心に苦しい業況は続いている。表面上の倒産件数こそ減っているものの、休廃業・解散の増加は、いわば「隠れ倒産」の増加を示す。(経済ジャーナリスト・森岡英樹)