日銀の“異次元の金融緩和策”によってわずか2年で40円以上も下落する円安は、日本経済や国民の生活にとって吉と出るか、凶と出るか。帝国データバンク情報部記者の内藤修さんは、中小企業への影響をこう語る。
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2014年の「円安倒産」は345件と、前年(130件)の2.7倍に急増しました。この件数は、取材によって「倒産原因のひとつとして円安の影響を確認できた」ものだけなので、実際には円安の影響を受けた倒産件数はもっと多いはずです。
今回の円安は12年11月半ばの80円付近から、わずか2年で40円下がっています。ここまでスピードが速いと、企業の対応も追いつきません。急激な円安が企業の倒産に与える影響は、大きいと言わざるをえません。
円安倒産の原因は主に3パターンに分けられます。[1]燃料費高騰による運送コストの上昇が収益を圧迫[2]輸入原材料価格が高騰するも販売価格に転嫁で きない[3]過去の円高局面でのデリバティブ損失とのWパンチです。[1]や[2]でじわじわと体力を奪われた末に倒産に至るケースが多く、[3]も今の ところ少数ですが発生しています。
業種別にみると、最も多いのは「運輸」(34.9%)で、これは[1]の燃料費高騰の影響をダイレク トに受けたと考えられます。その後に「繊維・衣服」「食料品」(ともに7.4%)、「飲食料品卸売り」(4.8%)と続きますが、これらは[2]の輸入原 材料の高騰が主な要因でしょう。繊維・衣服では中国などに外注した商品を輸入して販売するビジネスモデルの企業、食品では小麦、大豆など原材料の大部分を 輸入に頼っている企業の倒産が多い。たとえば、豆腐店では大豆の値段が高騰した上に、豆腐の包装用フィルムの価格も上がる、さらに大量の水を使うので水道 代もかさむ。かといって、それを大手スーパーなどへ卸す価格に転嫁できるかといったら、それも難しい。そうやって毎月のコスト負担が徐々に経営体力を奪っ ていき、倒産まで追い込まれてしまうわけです。
10年以降、全体の倒産件数は減少傾向にあり、14年も1万件を割っています。しかし、 これは08年のリーマンショック後に政府が暫定的な企業救済措置として制定した「中小企業金融円滑化法」による元本返済猶予や返済条件変更(リスケ)がい まだ機能しているからで、いわば「延命措置」をしているようなものです。企業の業績が回復した結果として、倒産が減っているわけではありません。
為替の影響は3カ月から半年後にじわじわとやってきます。15年は、日銀による追加金融緩和後の急速な円安の影響が本格化するでしょう。前述した「金融円 滑化法」によるリスケ効果も徐々に薄れつつあります。このまま円安が進めば、円安倒産のみならず、全体の倒産件数も増加する可能性は十分にあります。
※週刊朝日 2015年1月23日号